©️2023「アナログ」製作委員会 ©️T.N GON Co., Ltd.

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2023.10.05

原作を読み結末を知っていたのに!「アナログ」その結末に胸が締めつけられ、涙が・・・・・・。

山田あゆみ

山田あゆみ

あなたはスマホなしで生活ができるだろうか? 現在34歳の私は、高校生のときに初めて携帯電話、当時のガラケーを持ち、今ではスマホは生活必需品だ。電子マネーが登場してからは、お財布なしで外出できるし、仕事上の連絡を取り合ったり、SNSのチェックをしたり現代を生きるには欠かせない。
 
しかし映画「アナログ」はそんな時代の流れに反して、連絡先を交換せずに関係を育む男女のラブストーリーである。デザイナーの水島悟(二宮和也)は、喫茶店「ピアノ」で美春みゆき(波瑠)という謎めいた女性に出会う。みゆきは携帯をもっておらず、週に1度ピアノで会う約束をし、仲を深めていく。だが、悟がプロポーズを決めていた日を境に、みゆきは突然姿を見せなくなる。


 

結末を知りながら涙が出た

スマホ依存症の私は、鑑賞前は今作の設定に対して現実味をもてず、違和感を抱いていた。だが最後まで見て、泣いてしまった。原作を先に読了し、結末を知っていたのにもかかわらずだ。それは、悟とみゆきが心を通わせる過程にときめき、その結末に胸が締めつけられたからだ。

携帯電話をもっていないみゆきに対して、悟もアナログなものを好む人物だった。彼の素朴なキャラクターは今作のポイントのひとつだ。
映画の冒頭、携帯のアラームではなく、目覚まし時計の騒がしいベルで目を覚ます悟。炊飯器ではなく土鍋で米を炊き、床下から取り出したきゅうりのぬか漬けを丁寧に洗って切っていく。ひと切れ食べて「これこれ~」と満足げな笑顔を浮かべる。みそ汁をすすっては顔をくしゃっとさせて味わう……。他にも焼いたウインナーや納豆など食卓にはいくつも皿が並んでいる。ひとり暮らしの会社員の朝食としては、手が込んでいる方だろう。生活のひとつひとつに手間暇をかけるのをいとわない悟の丁寧な人柄が、この場面だけでわかる。


また、悟は仕事においても模型製作や手書きのデザイン画にこだわっていた。鉛筆で描かれるスケッチからはぬくもりが伝わると同僚からは評判だ。そんな悟だからこそ、連絡先を交換しないというみゆきの提案を受け入れたことに納得がいく。
 

スマホなしで見える景色

便利さを優先するとスマホは欠かせないが、悟とみゆきが仲を深めていく様子を見ていると、人と人が距離を縮めるための時間には、多少の不便さが必要なのかもしれない。

悟とみゆきがそば打ち体験に出かけた時、店にたどり着く前に悟のスマホの電源が切れてしまう。そこで、みゆきは勘に従って店を目指そうとする。悟は、道端で遊ぶ子どもたちの姿など人々の暮らしを目にして、地図アプリを見ていたら気づかなかったと感心する。思いがけない状況にこそ、人の本質が出るものだ。もしかしたら遠回りで、非効率かもしれないその状況を悟が楽しめたから、みゆきの彼への信頼は高まったのではないだろうか。

 
また、海辺で「みゆきさんと電話をするのが僕の最近の夢だった」と言って悟が糸電話を作る場面は、この映画の大きな見どころだ。「聞こえる。もっと伸ばしてみますか」と言って、徐々に糸電話の糸を長くして離れていく悟とみゆき。波の音にかき消されて、互いに声が聞こえていない中、心の内を明かす……。悠々とした青空と濃紺の海を背に、悟とみゆきが一本の糸でつながっている。スクリーン映えするショットであるとともに、ラストにかけて重要な意味を持つこの場面は、ピュアなぬくもりが心に染みる。

 
気づけば、スマホ依存症の私はすっかり2人の恋模様に引きこまれていた。大切な人の前で私はスマホを触りすぎていないだろうか。手放そうとは思わないが、時には置いて目の前の人と向き合うことに集中してみてもいいかもしれない。いつも会えるわけではなく、連絡がとれないからこそ、一緒に過ごす時間を大切にしていた悟とみゆき。そんな2人を待ち受ける運命はあまりに切ない。〝大切な人にただ会える喜び〟といういつの時代も変わらない愛の原点、いわばアナログな価値観を大切にする2人の恋の行方を、ぜひ映画館で見届けてほしい。

ライター
山田あゆみ

山田あゆみ

やまだ・あゆみ 1988年長崎県出身。2011年関西大政策創造学部卒業。18年からサンドシアター代表として、東京都中野区を拠点に映画と食をテーマにした映画イベントを開催。「カランコエの花」「フランシス・ハ」などを上映。映画サイトCinemarcheにてコラム「山田あゆみのあしたも映画日和」連載。好きな映画ジャンルはヒューマンドラマやラブロマンス映画。映画を見る楽しみや感動をたくさんの人と共有すべく、SNS等で精力的に情報発信中。

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