©2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 ©2013 ⽯塚真⼀/⼩学館

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2023.3.14

音楽ホール勤務の50代が「BLUE GIANT」に思い知らされたこと

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

蓬澤宏哉

蓬澤宏哉

ジャズの映画には名作が多い。「ラウンド・ミッドナイト」「バード」「ブルーに生まれついて」など・・・・・・。挙げればいくらでも出てくるのだが、これらはいずれも実写作品である。本作はアニメ、果たしてどんな映像表現になるのだろう、演奏シーンはどんな聴こえ方をするのだろう、と強く興味をそそられる。またその一方で10代の若者がバンドを組み「世界一」を目指して夢を追いかける、そんな熱すぎるテーマに50代後半の自分がついていけるだろうかという不安も抱えた。もちろん音にはこだわりDolby Atmosの映画館に向かう。しかし、オープニングからまもなく、サックスの力強い音色が内臓を震わせるほど豊かな音量で響いてきた瞬間、不安は霧散し、一気に作品の世界へ吸い込まれていった。
タイトルの「ブルージャイアント」とは、青い光を放つ巨星のこと。星は、あまりに高温になると赤を通り越し、青く光るのだという。奏者も聴衆も青く光るまで燃え上がる、最高に熱いライブと若者たちの生きざまに、自分も青く染まった。そして、泣いた。
 
年齢のせいか、近頃めっぽう涙腺が弱くなったと自覚しているが、それにしても、これほど泣けるとは! 映画史に残る名作とまで言い切る自信は無いが、自分にとっては掛け値なしの傑作であった。特に二つの点で、この作品は自分にとってのマスターピースとなった。
 

自分はいったい何ができているのだろうか?

何より素晴らしいのは、10代という輝かしい時間を、終わりがあるからこそ輝くものとして描いたことだ。主人公2人が出会う序盤のシーンで、「ジャズはずっと同じメンバーで演奏することがない」という言葉が強調される。この言葉の重さ、それが真実であるということを、まもなく3人の若者は友情の絆とともに思い知ることになる。その展開が見事である。終わりがあるからこそ輝く――。その切ない真実を見事に描き切ったところに胸を打たれた。そして、だからこそ終盤のライブ演奏が限りなく美しく、はなかく、まばゆい光を放って胸の奥まで響いてくるのだ。泣けた。
 
そしてもう一つは、そんな若者を見守る大人たちが輝いて見えたことだ。無謀なほど大きな夢に向かって突き進もうとする若者に、大人は何をしてやれるのだろうか。自分を見失い道を踏み外しかけている若者に、大人はどう手を差し伸べるべきだろうか。
 
「我々大人には、彼らより少し長く生きた者としての責任がある」
 
時にはそっと背中を押して決断へと導き、時には行く手に立ちはだかって踏みとどまらせる。この映画には、大人として果たすべき責任を、迷うことなく実行できるすてきな「人」たちが描かれている。自分と同世代か、少しだけ年上のそんな大人たちが、とてもまぶしく見えた。そして、ふと自分を顧みた。自分はいったい何ができているのだろうか? そんな大人になれているのだろうか? そう問いかけた時、映画の感動とは別の複雑な感情に襲われた。全然できていない! そう気づかされたのだ。
 

夢を忘れず挑戦し続ければ、不可能なことは無い

私は今、サントリーホールに勤務している。日々の館運営と公演開催を通して、連日、お客様、アーティスト、スタッフ・関係者と向きあい、音楽の未来を思い描き、その未来を実現するための設計図作りに奔走している。そして、その設計図の片翼が、若いアーティストの成長支援という設計図である。映画を見て改めて今、一人の大人として、彼ら若い世代のアーティストに自分ができること、すべきことを考えてみる。それは、彼らの目線に立ち、輝く未来を一緒に思い描いてみること。彼らが夢に向かって一歩踏み出すきっかけを作り、その決意を固める手助けをすること。そして、「今この時」は一度しかなく、時間には限りがあると気づかせることである。
 
サントリーホールには、大ホールと小ホールがある。小ホールは「ブルーローズ」と名付けられている。「ブルーローズ」の名は、サントリーが挑戦した青いバラの開発に由縁している。 自然界には存在しない「青いバラ」は、英語では不可能の代名詞とされていたが、長年のバイオ技術による研究で、2004年ついにサントリーは青いバラの開発に成功する。そこで、「不可能を可能にする、新たな挑戦の舞台」という思いを込め、小ホールを「ブルーローズ」と名付けたのである。
夢を忘れず挑戦し続ければ、不可能なことは無い――。
このホールを若者たちの夢で満たしたい。これから飛躍していく若いアーティストたちに、この夢の舞台で演奏する機会を一公演でも多く用意したい。音楽ホールの一職員として。そして、一人の大人として――。
 
サックスがほえ、ピアノが歌い、ドラムが駆け抜ける。熱い演奏にのみ込まれて、ブルーに染まりながら、強く強くそんなことを思ったのだった。 
 
全国公開中。

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ライター
蓬澤宏哉

蓬澤宏哉

東京都出身。1989年早稲田大学・法学部卒、サントリー入社。
18年間、宣伝・マーケティング部門を経験した後に、文化事業部門へ出向。
鎌倉芸術館、島根県立美術館、サントリー美術館、サントリーホールに勤務。
酒、文学、美術、音楽、映画、舞台を楽しみ、人生という名の散歩を続けている。

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