毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.1.14
「43年後のアイ・ラヴ・ユー」
ロサンゼルス郊外で1人暮らしをしている元演劇評論家のクロード(ブルース・ダーン)。妻亡きあと、悠々自適のリタイア生活を送っている。ある日、目にしたのは、若き日の忘れられない恋人で舞台女優だったリリィ(カロリーヌ・シロル)がアルツハイマー病を患い、施設に入居しているというニュース。再会したいと思ったクロードが選んだ方法は、同じ病を装って施設に潜り込むことだった。
荒唐無稽(むけい)な作戦だが、彼女が好きだったユリの花束をいくつも贈り、ガーシュインの名曲を流し、シェイクスピアの「冬物語」を観劇するなど、失われた記憶を手繰り寄せようとする手法はなかなかにロマンチックだ。昔の恋人との再会がそれぞれのパートナーに対する裏切りだと感じさせないのは、ダーンのチャーミングな笑顔と滋味あふれる芝居あればこそ。大人の青春恋愛映画でもあり、〝物語ること〟が人に与える力についての映画でもあるように感じられた。マーティン・ロセテ監督。1時間29分。東京・新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマほか。(細)
ここに注目
認知症やアルツハイマー病を扱う映画は増えているが、介護の大変さや悲惨さをあえて描かない。逆に、病気を機に実を結ぶ再会と喜びにあふれている。人を思うことのかけがえのなさや思いの強さ、生き生きとした人生をゆったりと映像にしみこませて、笑顔といとおしさを運ぶ。(鈴)