毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.3.18
時代の目:「生きろ 島田叡―戦中最後の沖縄県知事」 組織と個、証言で迫る実像
沖縄戦直前に赴任した島田叡(あきら)知事の実像に迫るドキュメンタリー映画である。玉砕や自決といった凄惨(せいさん)な状況も語られるが、沖縄戦の実態を官僚の側から描いたことは特筆すべきだろう。
島田は1945年1月に沖縄県知事に着任。約5カ月行政を指揮し、組織的戦闘の終結直後、摩文仁(まぶに)の壕(ごう)を出て消息を絶つまでを追った。ただ、島田の映像は残っていない。音声も日記などもない。写真数枚と軍とのやりとりの記録、周辺にいた官吏や市井の22人の証言から人間島田叡の実像を描き出した。軍の方針にあらがいきれず戦争を遂行したトップの責任と、自決せずに一人でも多く命を救おうと説得し、希望を与えた両面を持つ。その功罪、人間像を証言や資料から浮かび上がらせた。
佐古忠彦監督は「沖縄から国を見ると、問い返す矛盾がたくさんある」と言い、沖縄を描くことへの真摯(しんし)で緻密な仕事が結実した。同時に、本作はリーダーの決断や官僚はいかにあるべきか、命に向きあってどう生きるか、組織の前で個が何をなしえたかなど、時を超えて今日的テーマが累積している作品でもある。チャレンジングな労作だ。1時間58分。東京・ユーロスペース、大阪・第七芸術劇場(27日から)ほか。(鈴)