「羊飼いと風船」

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2021.1.21

「羊飼いと風船」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

チベットの草原で牧畜をしながら暮らす、夫婦と夫の父親、3人の息子という3世代の家族。子供たちが避妊具を風船にして遊ぶいたずらをしたことがきっかけで、妻(ソナム・ワンモ)と夫(ジンバ)の間にずれが生じていく。

牧畜の仕事も伝統を重んじ、仏教の輪廻(りんね)転生の教えを当然のように信じている夫。肉体的にも生活のためにも、妊娠を現実的に考えないわけにはいかない妻。その間に生まれる選択のドラマが広大な景色と共に描かれている。監督は作家としての顔を持ち、これまでも国際映画祭で高い評価を得ているチベット映画界の名匠、ペマ・ツェテン。

監督は一人っ子政策、世代間の価値観の相違、放牧民の今、仏教の教えと女性の自立など1本の映画のなかにさまざまな要素を盛り込んだ。羊たちの命を生々しく描き出すリアルな映像と、赤い風船のイメージなど詩的な映像の対比も鮮やか。見る者に問いを投げかけるラストだが、希望への一歩だと捉えたくなる。1時間42分。東京・シネスイッチ銀座。大阪・シネ・リーブル梅田(29日から)ほか。(細)

ここに注目

妻や夫、子供たちの生活、牧羊の風景を切り取った序盤が効果的だ。性と生のテーマが色濃くなる作品世界を徐々に浮き彫りにする。伝統的価値観や信仰に縛られる中で、妻の決断、自立を映像と俳優の力で映し出した演出が力強い。女性の内面に踏み込んだ普遍的で良質な作品。(鈴)

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