海辺の彼女たち ©2020 E.x.N K.K. / ever rolling films

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2021.4.29

海辺の彼女たち

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

技能実習生としてベトナムから来日したフォン(ホアン・フォン)、アン、ニューが劣悪な労働環境に耐えかねて脱走した。ブローカーの手引きで、ある漁村にたどり着いた3人は、母国の家族を思いながら働き始めるが、フォンが体調不良に見舞われる。

移民や出稼ぎ労働者を巡る問題は世界中の映画で取り上げられているが、本作の舞台は日本。在日ミャンマー人家族を描いた「僕の帰る場所」の藤元明緒監督が、多発する外国人労働者の失踪問題を背景に撮り上げた長編第2作である。感傷を排したリアリズムを貫くとともに、心身共に過酷な極限状況に陥っていく主人公フォンの行動範囲に視界を限定した演出が効果的。雪に覆われた港町の凍(い)てつく風景、悪夢のような闇夜の深さが、異国をさまよう若い女性たちの不安と孤立感を際立たせる。あえて告発調の社会派ものにせず、必死に生きる人間の尊厳や命の尊さに触れようとした作り手の意思が映画の純度を高めている。1時間28分。東京・ポレポレ東中野、大阪・シネ・ヌーヴォ(5月8日から)ほか。(諭)

ここに注目

北国の風や波の音、雪を踏みしめる足音が寂寥(せきりょう)感を際立たせ、セリフを抑えた長回しの映像は3人の心の揺れや喪失感を映し出して思考を促す。淡々としたラストも充実。汁物を飲み、ベッドに横たわるフォンを捉えるだけなのに、息が詰まるほどの緊張感に包まれる。(鈴)

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