「劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦」より  ©2024「ハイキュー‼」製作委員会 ©古舘春一/集英社

「劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦」より  ©2024「ハイキュー‼」製作委員会 ©古舘春一/集英社

2024.2.29

今年一番のヒットも狙える!?「劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦」大ヒットの理由を徹底分析!

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2024年が始まって約2カ月が経過。現時点でぶっちぎりの大ヒットを更新し、〝頂の景色〟に到達した映画が「ハイキュー!!」だ。
 
原作はバレーボールに懸ける高校生たちを描いた古舘春一の人気漫画。12年に週刊少年ジャンプで連載を開始し、コミックス全45巻の累計発行部数は6000万部超を記録している。14年にテレビアニメ化され、20年までに4シーズンが制作された。22年には「劇場版FINAL」シリーズの製作が発表され、その第1部となる「劇場版ハイキュー‼ ゴミ捨て場の決戦」が2月16日に全国公開を迎えた。
 


「ハイキュー!!」は週刊少年ジャンプの看板漫画の一つ

 本作は初日3日間で興行収入22.3億円、動員152万人を記録。2月26日付で興収41.8億円、動員290万人まで到達。24年公開作では断トツの興収であり、23年全体の邦画興収ランキングと比較してもトップ10に入るほどの数字をたたき出している。ジャンプの看板漫画の一つでありコンテンツ力は申し分ないが、ここまでのポテンシャルを秘めているとは、大方の予想を大きく上回ったのではないか。
 
豪華な入場特典の配布、自社で映画館チェーンを持っている東宝作品のため上映館が多くスクリーンを空けられる、上映時間が85分と短く回転数も良い、目立った対抗馬がいない、鑑賞料金自体の値上げ等々の要素を差し引いても、驚異的な熱狂ぶりだ。
 
しかし興味深いのは、この「劇場版ハイキュー‼ ゴミ捨て場の決戦」の構造自体は完全にファン向け仕様であるということ。ビギナーやライト層に向けたキャラ紹介等のイントロダクションも競技自体の説明も一切なく、ほぼ全編にわたって試合シーンが展開する。
 
そうした意味では若干ハードルの高さも感じる本作が、なぜここまでヒットしているのか――その要因は複合的であるため断定は難しいが、「ハイキュー!!」自体の魅力と絡めつつ、推察していきたい(なお、筆者は原作リアタイ世代のガチファンであり少々筆が滑る可能性があるが、ご容赦いただきたい)。
 

原作ファン待望の「ゴミ捨て場の決戦」を映像化

まず、本作の立ち位置から。タイトルの「ゴミ捨て場の決戦」はハイキュー史上において屈指の名勝負であり、原作ファンからすれば待望の映像化となる。主人公の日向翔陽が通う宮城県の烏野高校とライバルの孤爪研磨が通う東京の音駒高校には古くから親交があり、これまで何度も練習試合や合宿を行って関係を築いてきた(劇中で要所に挿入される回想シーンがそれにあたる)。
 
ただ「もう一回がない試合/負けたら終わりの真剣勝負」を行うには、両校が全国大会に出場しなければならない。「ゴミ捨て場の決戦」は並み居る猛者たちを倒してきた両校が、本懐を遂げた夢の舞台なのだ(ちなみに〝ゴミ捨て場〟のネーミングは、烏野=カラス、音駒=ネコが戦う場といえば……という発想から)。
 
かつ、「ハイキュー!!」はスポーツ漫画である以上に部活漫画だ。両校の3年生は敗退したら即引退してしまう状況下のため、ファンにおいては「絶対に見逃せない試合」であり、それが劇場の大スクリーンで見られることは〝ごほうびタイム〟に等しい。そのため初動にガチ勢がかけつけることは想像に難くないが、「ゴミ捨て場の決戦」の重要性を理解している古参ファンの稼働だけでは、ここまでの興収・動員には到達できなかっただろう。
 
必要なのは、コアからライトへと波及・伝播(でんぱ)する〝熱〟の共有。本作×劇場鑑賞でなければ得られない「特別感」「リッチさ」「感動」がガチファンの口コミで出たり、支持されるが故の動員・興収といった数字が周知されたりすることで現象感/イベント性を呼び起こし、「すごいらしいから見てみよう」とライト層が劇場に足を運ぶ動機になるのだ。ではその熱源とは? 端的にいえばクオリティーの高さだが、「ゴミ捨て場の決戦」においてはもう少し細分化して〝演出〟に注目したい。
 

名せりふや見せ場は網羅しつつ、さまざまな創意工夫を凝らす

 「ゴミ捨て場の決戦」は原作コミックス33~37巻に収録されており、全てをそのまま丸っと映像化することは難しい(余裕で2時間を超える)。そのため本作ではシーンの取捨選択を行いつつ、ダイジェスト感が出ないようにメリハリを強化して、キャラクター人気の高さ(ファンにとっての推しキャラが細分化している)が特徴である「ハイキュー!!」の特性をカバーすべくおのおのの名せりふや見せ場のシーンは網羅しつつ、継ぎ目が見えないようにするさまざまな創意工夫が凝らされている。
 
そのひとつが、空間演出だ。23年の興収1位(157億円)を記録した「THE FIRST SLAM DUNK」しかり、試合シーンが大半を占める映画において、臨場感をどれだけもたらせられるかは生命線。さらに、こと「ハイキュー!!」に至っては〝変人速攻〟に代表されるスピード感、「同時多発位置差(シンクロ)攻撃」「移動(ブロード)攻撃」のようにコートを立体的に使ったワイドな戦い方が魅力のため、その舞台となる試合会場しかり、空間全体をどう設計して切り取り、魅了するかの演出がクオリティーに直結する。
 
そんななかで、本作は多彩かつ流麗なカメラワークが満載。不規則な動きをみせる「ジャンプフローターサーブ」にあわせてカメラの軌道が変化したり、ネット上から俯瞰(ふかん)で見たり、コートの床から見上げる〝煽(あお)り〟のアングルを入れたり、選手の息遣いだけが聴こえるPOV(主観映像)を入れたり、カメラに向かって選手が走ってきたり、アニメーションならではの高速かつドライブ感のある動きでコートをかけ巡る等々、局面に合わせて無限に変化。さらに、荒々しいタッチに切り替えて選手の〝すごみ〟を表現するなど、複数のレイヤーを掛け合わせてくる。
 

構成力の見事さ、演出の巧みさが満足感をもたらす。どこまで数字を伸ばすか注目だ

 興味深いのが〝音(音響/音楽)〟の演出。試合中、バックでほぼずっと吹奏楽や和太鼓を含めた応援が聴こえているのだ。実際の試合会場に近い〝環境音〟を演出し、そこに劇伴を乗せるつくりになっている。そして、肝心のレシーブやスパイク、ブロックの際の肉体的なサウンドデザイン/音圧。また、本作のキーワードである「汗」の演出も見事だ。実際に汗が流れる描写だけでなく、「走る」「跳ぶ」際のバレーボールシューズが出す「キュキュッ」という音が細かく設計されている。
 
こうした要素があってこそ、覚醒した日向が劇中で繰り出す「〝ドン〟ジャンプ」の見ごたえが爆増している(ちなみにこのシーンの構成が原作と本作で異なっているのもコアな注目ポイント)。
 
また、こうした〝場〟のアプローチは猪突(ちょとつ)猛進な日向とクレバーな研磨の対比にもリンクしており、一切の音が消える「面白いままで居てね」のホラー的なゾクッとする演出、〝翔陽化〟して押せ押せムードになった烏野メンバーが研磨に虚を突かれるシーンの冷や水を浴びせられたような静まり等々、画面を構成する要素を〝逆手に取る〟のもうまい。
 
これはアニメーションに限らないが、いわゆる原作モノの映像がコアファンに愛されるうえで「理解度」は必須であり、「劇場版ハイキュー‼ ゴミ捨て場の決戦」はまさにその好例といえるだろう。
 
先に述べた各要素をキャラクターに絡める(窮地に陥った際の日向の心情描写もよりシリアスなものになっている)演出の巧みさに加え、日向と研磨、日向と影山、月島と山口、月島と黒尾、研磨と黒尾等々、各キャラクターの関係性を見事に組み込む構成力。映画館という視聴環境で効力を発揮する「映像」や「音」の演出と、ファン心理をくすぐる「愛情/理解度」――臨場感と感動をダブルで備えた「劇場版ハイキュー‼ ゴミ捨て場の決戦」が、高い満足度を誇っているのも納得だ。
 
なお、先に「FINALシリーズ」と述べたように、劇場版ハイキュー!!は今後も続く。「ゴミ捨て場の決戦」が最終的にどこまで数字を伸ばせるかにも注目だが、本シリーズがどこまでビッグコンテンツ化していくか、その成長過程にも期待したい。
 
「劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦」は全国公開中。

ライター
SYO

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1987年福井県生まれ。東京学芸大学にて映像・演劇表現を学んだのち、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て2020年に独立。 映画・アニメ、ドラマを中心に、小説や漫画、音楽などエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。トークイベント、映画情報番組への出演も行う。

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