毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.4.08
親愛なる同志たちへ
「暴走機関車」などで知られるロシアのアンドレイ・コンチャロフスキー監督が手がけた実録ドラマ。1962年、ソ連の南部ノボチェルカッスクで、生活苦にあえぐ労働者による大規模ストが発生した。事態を重く見たフルシチョフ政権は高官を現地へ派遣。そして街の中心部で、デモ参加者や市民を狙った無差別銃撃事件が引き起こされる。
ノボチェルカッスクの虐殺と呼ばれる史実と向き合ったコンチャロフスキー監督は、白黒スタンダードの静謐(せいひつ)な映像で当時のソ連における市民生活を細やかに再現。模範的な共産党員であるシングルマザーの主人公リューダ(ユリア・ビソツカヤ)が、銃撃事件を間近で目の当たりにし、国家への忠誠心を打ち砕かれていく姿を映し出す。強権政治の非情な暴力を描き、事件隠蔽(いんぺい)の内幕にも迫った映像世界は、何もかも現在進行形のウクライナ情勢と重ねて見ずにいられない。歴史の闇に触れ、あたかも〝今〟を予兆したような作品となった。2時間1分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・テアトル梅田ほか。(諭)
ここに注目
虐殺はもとより、ソ連が崩壊するまで30年間も隠蔽されていたという事実に驚く。厳格な党員で社会主義国家への強い忠誠心を持つ主人公の視点で描かれたことで、客観性が増すとともに、母親としての情感との落差が重なりあって迫ってくる。ベネチア国際映画祭審査員特別賞。(鈴)