藤竜也=北山夏帆撮影

藤竜也=北山夏帆撮影

2023.5.05

「仕事はやりすぎちゃ、だめ。〝空腹〟になるまで待つ」 デビュー60年、藤竜也の演技作法

勝田友巳

勝田友巳

撮影を担当した、孫ほど年の離れた記者に「かっこいい……」とつぶやかせてしまう、藤竜也。気負いもてらいもなくたたずんで、世間の二枚目のイメージは「錯覚ですよ」と受け流す。誠実に丁寧に役に取り組む姿勢は、大作でもインディー作品でも変わらない。かっこよさの理由は、その自然体にありそうだ。


 

「一生懸命やって、その積み重ね」

主演した新作のコメディー映画「それいけ!ゲートボールさくら組」では、ゲートボールに挑戦する元高校ラガーマンを演じている。役の設定は76歳、実年齢はさらに上。「いま、81歳らしいんですよ、8月で2になる。その数字は結構プレッシャーですよね。エレベーターに乗っても邪魔にならないように、端に乗ってとかね、ハハハ」と冗談めかして。「体は平気です。80歳超えて映画に出るっていうこと自体が、まあありがたいことですな」
 
映画、ドラマへの出演が途切れない。それでも仕事に対する感覚は「球が転がるような感じはしませんねえ、1回ごとにパタン、パタンとひっくり返っていく感じ。一本一本、一生懸命やって、その積み重ね」。
 
監督や映画の規模にかかわらず、脚本を読んで直感で、出演を決めるという。「それいけ!ゲートボールさくら組」は、「私と同じくらいの年代の、老人が感じること、夢、あらまほしきことが全部入ってますよね。元気でいなくちゃ、年のプレッシャーに負けずに楽しくやろうぜ、みたいなね」。


「それいけ!ゲートボールさくら組」©2023「それいけ!ゲートボールさくら組」製作委員会
 

乱暴に扱ったら役は応えてくれない

コメディーも経験豊富だ。「コメディーも俳優が真摯(しんし)に演じれば、おかしくなるように作ってあるわけです。こっちが笑ってもらおうなんて気をおこすと、失敗します。いつもと同じように与えられた役をやればいいんです」
 
「演技は役じゃなくて、人生」という。演じる役の履歴書を作って、人生を想像する。「こんなとこで生まれて子供時代を過ごして、こんな人と出会ってこんなことがあって、今があるんだというふうに。そうすると、その人が喜ぶ気がしますね。敬意を持って、丁寧に扱う。乱暴にすると応えてくれないですよね」
 
そのために、一つ終わるとなるべく間を空けるそうだ。「仕事はあんまりやっちゃダメだと思います。やりたくても空腹になるまで待って、ようやく次の役がやれるっていうところでいただきたいですな。そうするとむさぼるように、ああ、うまいなあって」
 

「もうかるぞ」が決め手 日活へ

デビューは1962年、日本大学芸術学部在学中の21歳、日活のニューフェイスだった。「スカウトです。町歩いててね。お金もうかるぞって言われて。それが効きました」。当時、映画はテレビに押されて観客が減り始めていたとはいえ、なお娯楽の王様。日活も撮影所をフル回転させ、石原裕次郎らのスター映画を量産していた。そこに次々と出演するものの演技は素人で、納得のいかない日々が続く。
 
「どうやっていいか分からない。地に足が着かないと言いますか、暗中模索でした」。渡哲也主演のアクション「野獣を消せ」(69年)で凶悪な若者を演じてようやく、「これだったらいけるんじゃないかなと思いました。切り口を見つけたんですかね」。渡の敵役、冷酷非情な不良グループのリーダーだった。


 

「逃げたら後悔する」と出演した「愛のコリーダ」

日活を離れ、73年にドラマ「時間ですよ」(TBS)にレギュラー出演。順調にキャリアを積んでいた75年、転機を迎える。大島渚監督が阿部定事件を題材にして撮ったハードコアポルノ「愛のコリーダ」への出演だ。大島監督の過激な構想に、多くの男優が尻込みした中で、助監督だった崔洋一に口説かれ周囲の反対を押し切って引き受けた。
 
「これはやらなきゃダメだと思いました。逃げたら一生、自分に対して恥ずかしく思うだろうと。事務所にやらないでくれと言われたんで、辞めますと独立してね。素晴らしいものが見えてるのに、ベッドシーンが嫌だからと逃げていたら、俳優としてダメになったと思う。実際2年ぐらい仕事がなかったけど、焦りも後悔もなかった。大丈夫っていう、根拠のない自信もありました」
 

様変わり映画界「混沌さが好き」

大島監督の「愛の亡霊」(78年)でスクリーンに戻り、以降は男の色気を持ったダンディーなイメージが定着したが、当人はまったくその気配がない。「ダンディーってそもそもなんですか。でも錯覚していただければありがたい。それが仕事ですから。私は一介の俳優、無理しませんよ、生協で買い物袋いっぱいに食品を詰める時も、こうして話している時も、同じです」
 
長い俳優生活の間に、映画界も様変わりした。作品も演技も、求められるものもかつてと同じではない。「昔はよかったとは思いませんねえ。今の方が躍動的で、自由になった。価値観が多様化して、それに見合う作品と演技が必要とされるでしょう。混沌(こんとん)が好きですね。戸惑うことはないです」

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

北山夏帆

きたやま・かほ 毎日新聞写真部カメラマン

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