「仏教の次に映画が大好き」という、京都・大行寺(だいぎょうじ)住職の英月(えいげつ)さんが、僧侶の視点から新作映画を紹介。悩みを抱えた人間たちへの、お釈迦(しゃか)様のメッセージを読み解きます。
2024.4.26
伝統も価値観も変わる 理感じる「劇場版 再会長江」:英月の極楽シネマ
10年前にNHKの番組で長江を撮影した竹内亮監督が、2021年から2年をかけて再び6300キロをたどる旅に出たドキュメンタリー。旅の目的は、前回はたどり着くことができなかった源流、その最初の一滴を撮影すること。そして、かつて撮影した人々との再会を通して、中国の変化を見つめること。
まずは映し出される景色に圧倒されます。アジア最大の大河だけあり、河口に位置する大都会・上海から始まり、水墨画のような渓谷や草原、さらに南洋の島を思わせる場所もあり、息をのむ美しさです。それだけでなく、「女の国」と呼ばれる、母系制を大事にしている少数民族や、ゲルに住む遊牧民の人たちも登場し、とても興味深いです。その中でも、雲南省のチベット族の少女・茨姆(ツームー)との再会は印象的です。
観光客に子羊との写真を勧めてお金を得ていた彼女は、10代のうちに親が決めた相手と結婚していました。今、茨姆の6歳違いの妹は大学に行き、30歳までは結婚したくないと言います。驚くことに親もそれに対して寛容です。数百年の伝統が、この10年で急に変わったのです。
変わったといえば監督もそうです。拠点を日本から中国に移したからでしょうか、まったく話せなかった中国語が、今では流ちょうです。できなかったことができるようになり、またその逆もあるかもしれません。住む場所や、伝統も変わっていく。そして、何が大事かという価値観さえも、あっけなく変わっていく。まるで刻々とその姿を変える長江のように。「行く川の流れは絶えずしてしかももとの水にあらず」。鴨長明の「方丈記」が思い出されましたが、それが物の理(ことわり)、事実なのですね。東京・角川シネマ有楽町、大阪・テアトル梅田ほかで公開中。
フォロワー630万人の日本人監督が撮った中国の10年 竹内亮監督インタビュー