「アウシュヴィッツのチャンピオン 」© Iron Films sp. z o.o,TVP S.A,Cavatina GW sp.z o.o, Hardkop sp.z o.o,Moovi sp.z o.o

「アウシュヴィッツのチャンピオン 」© Iron Films sp. z o.o,TVP S.A,Cavatina GW sp.z o.o, Hardkop sp.z o.o,Moovi sp.z o.o

2022.7.22

アウシュヴィッツのチャンピオン

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

1940年、ワルシャワの元ボクシングチャンピオン、テディは、アウシュヴィッツ収容所に送り込まれる。ある時ボクシングの技量を見いだされ、娯楽を欲するナチス将兵のために、リングに立つことになる。テディは対戦相手を軒並み打ち倒し、報酬として手に入れた食糧や医薬品を仲間に分け与える。一方で、収容所ではユダヤ人たちが次々と殺され、衰弱して死んでいった。

実在したプロボクサーがモデル。テディの試合はナチスのための娯楽だが、収容所の人々にとっては陰惨で過酷な日常を生き抜く希望となり、テディ自身の尊厳を保つ糧にもなっていく。

テディを演じたピョートル・グロバツキの肉体のおかげで、リングの熱狂とテディが収容所の希望となっていく過程は説得力抜群。一方で、スポーツのカタルシスは思想やイデオロギーを超え、収容所の悲惨さを娯楽の材料にしているような居心地の悪さを感じなくもない。マチェイ・バルチェウスキ監督。1時間31分。東京・新宿武蔵野館、大阪・テアトル梅田ほか。(勝)

ここに注目

実話の映画化というが、収容されていた人々は本当にテディの活躍に一喜一憂し、希望を見いだしていたのだろうか。生き延びるために闘い続けたボクサーの静かな意志と執念は感じるが、これまでも何度も描かれてきた強制収容所の恐ろしさに、ただただ打ちのめされた。(鈴)