「燃えよ剣」

「燃えよ剣」Ⓒ2021「燃えよ剣」製作委員会

2021.10.14

この1本:「燃えよ剣」 青春の疾走、たっぷりと

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

司馬遼太郎の小説を映画化。おなじみ幕末の、新選組の興亡だ。映画化が長年の念願だったという原田眞人監督、土方歳三に岡田准一、近藤勇に鈴木亮平、沖田総司は山田涼介と当代のスターを並べ、新選組の誕生前夜から最後の火が消えるまで、余すところなく押し込んだ。躍動感のあふれる、ギュウギュウ詰めの一作である。

映画の柱は、激動期の青春群像。多摩の田舎でケンカに明け暮れる「バラガキ」(悪童)が、会津藩主松平容保(尾上右近)の呼びかけに応じて京都に上り、新選組としてのし上がる。侍に憧れ、名を上げようと暴れ回る若者たちが、力を手にした高揚感を活写する。リアリズムと様式美を折衷したチャンバラ活劇でもある。バラガキ時代のこん棒での殴り合いから、沖田と倒幕派の剣客岡田以蔵(村上虹郎)の一騎打ち、芹沢鴨(伊藤英明)暗殺、池田屋事件に鳥羽・伏見の戦い。趣向を凝らしたアクションの連続だ。ここは原作を膨らませた、恋愛ドラマ。土方を追いかけるお雪(柴咲コウ)の情熱と艶が画面を彩る。お雪を自ら行動する強い意志を持った女性と造形し、画面は力強い。

そして、時流が変わって追われる身となり、輝きを失う姿も逃さない。劣勢の中で仲間を失いながら、土方は満身創痍(そうい)で戦い続ける。権力闘争、思想闘争に惑わされず、侍の本分は主君への忠誠にありと、ぶれずに初志を貫いて、次第に追い詰められていく。孤独を深め、死に場所を求める土方に、敗者の美学がある。

重要事件を詰め込んで、なおかつ彩りも添えようとする。数十人の登場人物それぞれを造形し見せ場が用意されて、すみずみまでアンコがぎっしり。食べ応えは十分だが、濃密すぎて胃もたれしそう。日本映画の中でまれなスピード感と重量感は間違いない。豪華な娯楽大作である。2時間28分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(勝)

ここに注目

岡田准一、鈴木亮平、伊藤英明をはじめ、イメージにぴったりのキャスティング。若手では美しく、けなげに沖田総司を演じた山田涼介、神経質な雰囲気で徳川慶喜を演じた山田裕貴の存在感が光っていた。時代を駆け抜けた男たちのドラマが高い熱量と濃度で描かれるだけに、土方歳三と彼を支えたお雪のパートがもどかしく感じてしまう場面も。岡田が振り付けを担当した部分も多いと思われる殺陣のシーンは臨場感にあふれ、見事。再現した池田屋のオープンセットで、生々しさとリアリティーが感じられるアクションに圧倒された。(細)

ここに注目

土方さん、かっこいい……とときめくばかりだった。岡田の演技には、殺陣はもちろん、細かな所作やたたずまいにまで、土方の信念や美学が宿っているようだった。特に土方の最期となるシーンはあまりに美しく、死ぬ場面とは知りながらうっとりしてしまった。彼の死に方については諸説あるようだが、このような最期だったということにしておきたい。
話題性や安定感だけで選んだのではないと思われる、脇役のキャスティングもおもしろかった。中でも、地味に活躍する山崎烝を演じた村本大輔が印象的だ。(久)

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