毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.11.18
チャートの裏側:客層固定化に善しあし
土日の推移だけでは見えてこないことがある。この2週間ほど、平日に何回もトップに立つ作品があった。「老後の資金がありません!」だ。年配の観客が多く、その人たちは平日に映画館を訪れるケースが目立つ。高齢層が観客のメインだと、そのようなことは珍しくない。
ただ、本作はやけに平日が強く、最終興行収入で10億円以上が見えてきた。コミカルな中身に、グサッとくるシーンが多い。その描写の数々が、見る者の何気ない日常の営みを刺激してくる。押しつけがましくないので、逆に心に残る。このあたりが平日健闘の理由とみる。
一方で土日となると、ぐんぐん数字を上げてくる作品が、「映画 すみっコぐらし」の第2弾だ。親子連れが主流だから、自然とそうなる。こちらも最終10億円超えが狙える。新型コロナウイルスの感染者も減り、ファミリー層は、以前よりは安心して映画館に出向いているようだ。
2作品ともに、客層の固定化、限定化がヒットにつながっている。洋画の「エターナルズ」も、マーベル映画ファンという興行のくくりが十分にできる。ただ、「エターナルズ」は、作品の大きな構えを考えれば、その客層中心では数字が伸びず、物足りないだろう。固定化、限定化には善しあしがあるということだ。興行の難しいところである。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)