前田亜紀監督、フリーランスライター畠山理仁さん 撮影:田辺麻衣子

前田亜紀監督、フリーランスライター畠山理仁さん 撮影:田辺麻衣子

2023.11.16

インタビュー:投開票が終わり結果がでると、選挙ロスに陥り抜け殻みたいになる「NO 選挙、NO LIFE」 前田亜紀監督、フリーランスライター畠山理仁さん

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鈴木隆

鈴木隆

すべての候補者の主張を有権者に伝える 

国内外の選挙で候補者全員の取材を試みるフリーランスライター、畠山理仁(みちよし)のドキュメンタリー映画である。舞台は2022年7月の参院選東京選挙区と9月の沖縄県知事選。立候補予定者説明会から投開票日翌日まで、候補者にカメラを向ける畠山の姿を追う。新聞やテレビなどが取り上げる主要な候補者だけでなく、いわゆる泡沫(ほうまつ)候補を含む全立候補者を対象にすることが畠山の取材の流儀だ。畠山と二つの選挙に密着した前田亜紀監督に話を聞いた。


 

知らない世界を見たい

 二人が顔を合わせたのは前田監督がプロデュースした「なぜ君は総理大臣になれないのか」(20年)の試写会。畠山の著書で開高健ノンフィクション賞の「黙殺~報じられない〝無頼系独立候補〟たちの戦い」(集英社)を読んでいた前田監督が「知らない世界、取りこぼされている世界があった。畠山さんの見ているものを多くの人に伝えたい」と声をかけた。畠山も「(立候補者)全員取材を心掛けているが、現場に行くと僕一人しか見ていない光景があまりに多い。全員取材をしようとする人は僕以外ほとんどいない」と応じた。

 
「(選挙の現場で)畠山は想像以上にハードなスケジュールで動き回り、私が感知できないような音にも気づいて走りまわっていた」。前田監督は置いていかれたこともあったが、必死にくらいついてカメラを回した。撮影が進むにつれて、前田監督の選挙への見方は大きく変わった。「これまで独立系の人や一人で戦っている立候補者は遊びや好き勝手に出ているというレッテルを貼っていたが、まじめで真剣なことに驚いた」。畠山が続ける。「立候補の説明会にはきたが、告示日に現れない人もいる。家族の強い反対や供託金を借金したが足りなったことで見合わせた人など。前田監督は彼らもカメラに収めてくれた」
 

全員取材にこだわる理由

 立候補者全員取材のきっかけをこう語る。「以前、週刊プレイボーイの取材で大川興業の大川豊さんと選挙取材した時、大川さんが『新聞やテレビに出ない立候補者の話も聞きたい』といって一緒に会いに行った。元々興味はあったが、ものすごくいろいろなことを一生懸命に考えていて、世の中のために自分のアイデアを生かしてほしいという人がたくさんいた」
 
「それは今も変わらない。会うと必ず発見や学びがある。彼らはエネルギッシュでユーモアもあってこちらも元気にしてくれる存在。自由な発想と行動力がある」とあふれるほどの魅力があるという。「常識の枠に収めようとさまざまな可能性を狭めてしまうのはよくない。選挙は彼らに会える絶好のチャンス」と言い切った。
 
畠山は選挙取材の記事を週刊誌などに書いている。そのうえでこう話す。「有権者は候補者を直接見る機会は少ない。ポスターや選挙公報を見ている人はいいほうだが、それらを全く見ていない人が圧倒的に多い。それで選挙に行かない。行かない人が口にするのは『入れたい候補者がいない』。誰が出ているか聞いたら知らないという」。確かにこうした人は少なくないだろう。「全員を何らかの形で見て(知って)いたらベターな人はおそらく決められる。誰が出ているかもわからないから棄権する」。投票率の低さ、現状をこう説明する。
 
さらに付け加える。低い投票率で当選した人は有権者が本当に望んでいる人か、ということ。「選挙は当選させたい人を選ぶのと同時に、当選させてはいけない人がいることを知らせる面もある。投票率の低迷が続くと、一部のカルト的に人気のある人が当選してしまう危険性もはらんでいる」
 

立候補は当たり前の権利

 畠山は、取材やそのアウトプットによって有権者が考える材料を提供している。「有権者をある意味信頼している。有権者は一番の権力者」と力強く話す。立候補自体についても「立候補は当たり前の権利。『なんであの人が立候補しているのか』などという声を聞くと許せない気持ちになる。有権者に『出るな』という権利はない。立候補者に敬意を持って接してほしい」という。有権者がもっと主体になって選挙にかかわってほしい、という思いが感じられる。
 
二つの選挙で畠山に密着した前田監督は、畠山の言葉にうなずきながら話す。「選挙に面白さを見いだした人だがそれだけではない。社会がもっとフェアであってほしい、というのが根底にある。好きなだけでは続かない。(自分が)やらなければならないという使命感が背中を押していると感じた」。寝る間を惜しんで取材、執筆に全力を傾けているのだが「経済的には厳しく、財布を見ると毎回にように終わりにしようと考えてしまう」というのも畠山の本音のようだ。ちなみに、選挙取材がない時はライターとしての仕事や知人から別の仕事を紹介されているという。
 

終わると抜け殻、でも・・・・・・

 参院選東京選挙区の取材では立候補者34人全員に取材するなど、選挙期間中は寝る間も惜しんでいた。選挙は、立候補する側も取材する側も中毒性がある。自身でも「もちろんジャンキーの部分はある。投開票が終わり結果がでると、選挙ロスに陥り抜け殻みたいになる」と笑った。それでも、ご本人は「死ぬまでこの取材を続ける」と言い、「民主主義のグランド整備のようなことをやっていきたい」と意気軒高に語る。
 
インタビューの終盤、畠山はこうも話した。「選挙に挑戦する人がたくさん出てきてほしいが、そのためにはほかの人の選挙を見てほしい。初めて出る人は選挙を一回も見ていなくて何もできないまま終わると心が折れて次につながらない。これは社会的な損失。どう戦うか一回シミュレーションして臨んでほしい」。選挙の話は止まらない。
 
前田監督は「私のような体験をもっと多くの人に」と願う。その動きが最近出始めているという。一部の有志が昨年末と今年1月、宮崎県と山梨県の知事選候補者の演説を聞いて各陣営の事務所で立候補者の話を聞くツアーのようなものに参加したという。こうした参加者らが増加することに畠山も大いに期待している。

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ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

カメラマン
田辺麻衣子

田辺麻衣子

たなべ・まいこ 2001年九州産業大学芸術学部写真学科卒業後スタジオカメラマンとして勤務。04年に独立し、06年猫のいるフォトサロンPINK BUTTERFLYを立ち上げる。企業、個人などさまざまな撮影を行いながら縁をつなぐことをモットーに活動中。

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