「すべてうまくいきますように」 ©2020 MANDARIN PRODUCTION – FOZ – France 2 CINEMA – PLAYTIME PRODUCTION – SCOPE PICTURES

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2023.2.03

この1本:「すべてうまくいきますように」 〝安楽死〟奔放な悲喜劇

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

多作で多彩なフランソワ・オゾン監督。時事問題にも嗅覚鋭く、教会の性的虐待を暴いた「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」(2019年)に続き、今作は安楽死を描く。死は、そして生は誰のものかを考えさせる。

エマニュエル(ソフィー・マルソー)の、85歳の父親アンドレ(アンドレ・デュソリエ)が脳卒中で倒れた。アンドレは体の自由が利かなくなり、元通りの生活が送れなくなることを悟って「人生を終わらせてくれ」と懇願する。妹のパスカル(ジェラルディーヌ・ペラス)と共に翻意を促すものの、アンドレの決意は固い。

オゾン監督らしくというべきか、扱う題材は深刻でも、映画のタッチは軽快だ。一度決意したアンドレは、動揺する姉妹をよそにぶれることなく安楽死へ一直線。前半こそ体がマヒして動けない姿は悲痛だが、運動機能を回復し、孫との交流を楽しめるようになってもアンドレは未練を示さない。スイスなら合法的に安楽死ができると知って、着々と、むしろ喜々として手続きを進めていく。

エマニュエルの回想や病室に現れるアンドレの元恋人との挿話から、愛憎が交錯する家族の関係を巧みに描き出す。一方で、安楽死の手順や経費も手際よく示して、実践的ガイドのよう。終盤、フランスの法律をかいくぐるようなドタバタ劇も用意して、オゾン監督はぬかりがない。

命を永らえることと生きることの違いは何か。周囲の思いを無視して死を望むアンドレと、アンドレの意志に反しても生きてほしいと願うエマニュエルと、どちらが身勝手か。死を選ぶ自由も結局は金次第か。ジャンリュック・ゴダール監督がスイスで安楽死を選んで話題になったばかり。感傷は薄めだが、多くを問いかける。1時間53分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(勝)

ここに注目

安楽死を扱った映画は、その是非を問う社会派もの、もしくは観念的な作品になりがちだが、変幻自在の作風で知られるオゾン監督はどちらでもない家族の狂騒劇を撮った。身勝手で皮肉屋なのに憎めない父。その奔放な言動に振り回される娘。両者の関係を縦軸にしながら、長らく別居中なのになぜか離婚しない芸術家の母(シャーロット・ランプリング)らの存在から、愛というものの多様性や不思議さが垣間見える。オゾン監督の柔らかなまなざし、笑いと悲しみが表裏一体になった人間模様を体現した俳優陣に魅了される一作だ。(諭)

技あり

オゾン監督との仕事で、セザール賞撮影賞ノミネートの経験があるイシャーム・アラウィエ撮影監督が撮った。舞台が三つの病院で、病室や廊下の雰囲気を変えてもあまり目先が変わらない。しかし、アンドレが動けば景色は変わる。例えばスイスにたつ前夜、レストランに救急車で乗り付け、エマニュエル夫婦を左右に座らせ「最後の晩さん」を楽しむ。「今日は奇麗だが、子ども時代はブサイクだった」と遠慮なく言い、苦笑いで応じるエマニュエルの大アップ。監督を5本もやってフレーム(映画の枠)を知るマルソーの芝居も見どころ。(渡)

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