映画でも配信でも、魅力的な作品を次々と送り出す韓国。これから公開、あるいは配信中の映画、シリーズの見どころ、注目の俳優を紹介。強力作品を生み出す製作現場の裏話も、現地からお伝えします。熱心なファンはもちろん、これから見るという方に、ひとシネマが最新情報をお届けします。
2023.5.16
スマホを落としたら、死ぬほど怖い目にあったは世界に通じる。韓国版「スマホを落としただけなのに」のリメークの舞台裏
「これからの邦画は多様性があった方が良いと思う」。TBS映画・アニメ事業部の辻本珠子さんは言う。「セオリーはあるにせよ、こうじゃなきゃいけない、とルール化して否定する価値観を捨てて、自由に組み合わせを考えていく時代になったのではないか」と重ねる。
韓国人は日本よりもスマホが身近
2月にNetflixで放映された韓国版「スマホを落としただけなのに」の日本側の窓口になり、企画を成立させた。「スマホを落としたら、死ぬほど怖い目にあったというストーリーは世界中で通じる」と冗談交じりに話すが、まさに腑(ふ)に落ちると聴き入った。
2018年11月2日に公開され19.6億円の興行成績を残した大ヒット作品は、日本で原作小説が出版された後に韓国翻訳版が出版されたことで、日本公開前から宝島社に韓国から映像化の問い合わせが殺到したそうだ。
©2018映画「スマホを落としただけなのに」製作委員会
「韓国人は日本よりもスマホが身近で好きだからかなあ」と思ったそうだ。
日本での映画化の原作権をライセンスしてくれた宝島社と話し合い「両社にとって良い形を考えて、結果TBSがリメークの窓口となった。宝島社さんが最高の形の日本公開を迎えられるよう気を使ってくださったのだと思う」と言う。
韓国人はパリパリ(急いで急いで)
ここに最終的にリメーク化権を渡すMIZIのソ・ジョンへさんが、ロボットの小出真佐樹さんを窓口としてその1社として現れた。
「全社様とお会いして最終的にMIZIさんに決めました。でも他の会社がダメだとかはなかったんです。外国の書籍をあんなに早く、しかも丁寧に日本語の企画書で権利を取りに来る。逆に日本の製作者はそこまで好奇心と速度がなくてダメだなあと反省した」と言う。自らも映画「図書館戦争」シリーズなどを企画したプロデューサーとしての顔を見せた瞬間だった。
「韓国人はパリパリ(急いで急いで)なひとたちが多い。このプロジェクトは日本側も含めパリパリな人が集まった気がする」と当時を振り返る。「契約も、その後のプロット、シノプシスのやりとりもスムーズに進んだ。宝島社もMIZIも小出さんももちろん私もお互いがいろいろ迅速に判断できた。最後は私が原作出版社チームの窓口、小出さんが映画チームの窓口のような感覚」になったそうだ。
コロナの中では早く完成した
そんなパリパリで良い雰囲気で進んでいるプロジェクトに20年、新型コロナウイルス禍が襲いかかった。「韓国は映画を撮影し終わったらすぐカンパケる(編集等を経て完成させる)のではなく、公開日や放映日に合わせてカンパケるそうで、なかなかカンパケなかった」。一気にプロジェクトが停滞していった。
結果的には今年の2月にNetflixで配信開始され、世界で1位になった(Netflixグローバルトップ10 2023年2月20~26日/映画・非英語部門)。「コロナの中では早く完成したと思う。配信開始のあとソ・ジョンへさんがわざわざ来日して、お礼を言いに来てくれた。一緒に喜べて良かった」と笑顔で語った。
© 2023 Netflix, Inc.
アジアの一国として世界のパイを狙う
これから自分の作品で韓国と組んで映画を製作することについてたずねると「映画に関わり出した00年代はビデオグラムの市場が大きかったこともあり、国内だけで十分な利益が得られた。しかし、今やその市場が減りつつあり、日本国内の利益だけでは難しいことが多いと考えるようになった。日本でも韓国でもどちらでも良いからリードプロデューサーを決めてやれば良い。どうやったら日韓で稼げるのか考えたい。まあ、そもそもどこの国とやるかというよりも、アジアの一国として世界のパイを狙わないと」と意欲を見せる。
これからは世界を目指すのが必須ですね!と語りかけると「絶対に海外だ、とも思わないんです。海外を目指そうが、今まで通り国内でやろうが、これからの邦画には多様性があって良い。ひとがやることに良いとか悪いとかはなく、セオリーやルールだけにならないようにしたい」と本音を語った。
この件で韓国語を習い始めた辻本さん。「直接コミュニケーションを取るために習ってます。次は何語を始めようかなあ」とさらっと言って、現在撮影中のロケ現場に戻って行った。
僕が辻本さんと出会ったのは05年公開「あらしのよるに」。彼女は商品化担当だった。その頃と変わらぬ、何ものにもとらわれない自由さを感じさせる後ろ姿なのでした。
インタビュー:日韓映画の水先案内人・小出真佐樹さんが日本の製作委員会システムを再評価すべきと言うわけ - ひとシネマ (mainichi.jp)