日韓映画の最新事情について語る小出真佐樹さん

日韓映画の最新事情について語る小出真佐樹さん

2023.5.01

インタビュー:日韓映画の水先案内人・小出真佐樹さんが日本の製作委員会システムを再評価すべきと言うわけ

映画でも配信でも、魅力的な作品を次々と送り出す韓国。これから公開、あるいは配信中の映画、シリーズの見どころ、注目の俳優を紹介。強力作品を生み出す製作現場の裏話も、現地からお伝えします。熱心なファンはもちろん、これから見るという方に、ひとシネマが最新情報をお届けします。

宮脇祐介

宮脇祐介

19日公開「最後まで行く」は2015年日本でも公開されたキム・ソンフン監督の同名作品のリメーク。「新聞記者」や「ヤクザと家族 The Family」、「余命10年」などの藤井道人が監督。交通事故を起こした刑事・工藤(岡田准一)の隠蔽(いんぺい)のドタバタとそれを追い詰める県警本部監察官・矢崎(綾野剛)の冷徹さが際立つサスペンスエンターテインメントである。

©2023映画「最後まで行く」製作委員会
© 2023年

帰国してすぐに韓国語を習いに行った

この映画のリメーク化権を韓国から獲得したのが制作会社ロボットの小出真佐樹さん。作品のプロデューサーにも名を連ねている。10年にも及ぶ日韓を舞台にした映画製作の実績から、日韓映画の水先案内人とも言われる小出さん。彼から見た日韓映画事情を聞いた。
 
小出さんは元々大の香港映画ファンだった。「年に4回同地を訪ねて映画を見ていた」ほどだった。しかし、「中国に返還され、社会性をおびた作品が減り、急速に興味を無くしていった」そうだ。
 
そんな時に昔勤めていた東映の先輩から韓国旅行に誘われたのが転機だった。「先輩はカジノ目当てだったので、僕はやることがない。それで、映画館に行ったら『友へ チング』(01年、クァク・キョンテク監督)をやっていて、韓国語が全く分からないのに感動した」ことがきっかけで韓国映画にハマっていく。それは、「帰国してすぐに韓国語を習いに行った」くらいだった。
 
仕事で韓国に向き合うのが元同僚の紀伊宗之さんプロデュースのアニメ「放課後ミッドナイターズ」(12年)という作品。「その後いろいろな縁が重なり、釜山国際映画祭の企画ピッチなどの場で多くの人と会いトライ&エラーを重ねた」そうだ。それでも「ここでは言えないくらいたくさんの失敗をした」と言う。
 
それから主に韓国のIP(知的財産=原作コンテンツなど)の日本での利用の権利取得からの製作、日韓両国のキャスティング、日本のIPの韓国へのセールスを中心に行っている。その一作が今回公開の「最後まで行く」だ。「韓国がビジネスになるとかのビジョンは全くなく、その作品が好きかどうかが大きなモチベーション」だとのこと。「この作品はとにかく最初の30分の主人公のドタバタが面白くて、リメーク版権を取った」と言う。「乗らない映画は扱わない」とハッキリしている。

 

これからは日本映画の方が明るい

今、話題の韓国映画界に話を移すと「新型コロナウイルス禍で映画の大作が次々に配信へとシフトしたことで観客が劇場を離れた。入場料も値上がりするし、多くの大手が同じような企画を立てているので、1000万人動員なんて夢のまた夢になった」と悲観する。
「僕の話を聞きに来る人は韓国映画に日本映画が負けているという話を聞きたがる。しかし、これからは日本映画の方が明るい」と断言する。
 
理由を聞いてみると「日本の製作委員会システムは出資だけでなく、宣伝に力を注ぐメディアパートナーでもある。また、幹事会社を担う大手映画会社や民放キー局には素晴らしいプロデューサーが育っている。ある一定数の良質なエンターテインメント作品が供給される。そのことを再評価すべきだ。それに引き換え韓国の映画は投資の対象。もうからなければ誰も映画を作らなくなる」と答える。
 
韓国との共同製作について聞いてみると「監督かIPを持っていくか、韓国と共同製作する意思をはっきり持った人がいる作品じゃないと意味がない」と明快に答える。
 
「とにかく、日本人で韓国映画界に一番詳しいのは僕だという自負がある。どこの国にも一定のビジネスパートナーとして良い人も悪い人も存在する。嫌な思いもしてほしくないので、どんな相談もしてほしい」と言い切る。
 
小出さんとは毎日新聞連載・出版の宮尾登美子原作映画「藏」(1995年・降旗康男監督)でともに若い頃仕事をしたことがある。そんな彼がさらに力強いタグボートとして日本と韓国の間の海峡を往来してくれることに大いにエールを送るばかりだ。

ライター
宮脇祐介

宮脇祐介

みやわき・ゆうすけ 福岡県出身、ひとシネマ総合プロデューサー。映画「手紙」「毎日かあさん」(実写/アニメ)「横道世之介」など毎日新聞連載作品を映像化。「日本沈没」「チア★ダン」「関ケ原」「糸」「ラーゲリより愛を込めて」など多くの映画製作委員会に参加。朗読劇「島守の塔」企画・演出。追悼特別展「高倉健」を企画・運営し全国10カ所で巡回。趣味は東京にある福岡のお店を食べ歩くこと。

カメラマン
宮脇祐介

宮脇祐介

みやわき・ゆうすけ 福岡県出身、ひとシネマ総合プロデューサー。映画「手紙」「毎日かあさん」(実写/アニメ)「横道世之介」など毎日新聞連載作品を映像化。「日本沈没」「チア★ダン」「関ケ原」「糸」など多くの映画製作委員会に参加。朗読劇「島守の塔」企画・演出。追悼特別展「高倉健」を企画・運営し全国10カ所で巡回。趣味は東京にある福岡のお店を食べ歩くこと。