編集作業中のハム・ヒョンギョンさん

編集作業中のハム・ヒョンギョンさん

2023.3.16

超絶技巧で撮影1日分を音楽と効果音付きで〝完パケ〟:韓国映画「現場編集」知られざる役割 前編

映画でも配信でも、魅力的な作品を次々と送り出す韓国。これから公開、あるいは配信中の映画、シリーズの見どころ、注目の俳優を紹介。強力作品を生み出す製作現場の裏話も、現地からお伝えします。熱心なファンはもちろん、これから見るという方に、ひとシネマが最新情報をお届けします。

藤本信介

藤本信介

韓国映画の現場には必ず「現場編集」というスタッフがいる。日本では聞きなれないが、名前の通り、撮影した素材を現場で編集する技術者。その映像を見て、問題がないかスタッフやキャストが即座に正確に確認する。筆者が参加した韓国映画システムの撮影現場でも、その日の最後のカットが「OK!」になった直後、監督モニターがあるベースに行くと、すでに1日の撮影分が全て編集されていた。しかも、音楽や効果音までもがついているクオリティーで!
 
世界レベルへと年々上昇している韓国映像コンテンツに、現場編集という役割がどのような影響を与えているのか。筆者が参加した作品の現場編集、ハム・ヒョンギョンさんにインタビューした。
 

ハム・ヒョンギョンさん

監督とスタッフを強力サポート

――まず、現場編集とはどのような役割なのか教えてください。
 
現場で撮影した映像をその場で編集して、問題がないか確認するのが、一番大きな役割です。監督が演出したい内容がしっかりと表現されているかを確かめます。
 
現場はいつも慌ただしいので、監督が意図していた演出を、うっかり忘れてしまう場合もあります。そういう部分を補ったり、アイデアを出したりします。編集しながら、追加で必要なアングルやカットを監督に提案することもあるし、このカットは予想以上にいいものが撮れたので、こちらは撮影しなくてもいいのでは?と進言もします。また、俳優さんの動きや動線などに関して意見を出すこともあります。現場編集は、監督が表現したいことを編集という作業を通してチェックする役割です。
 
監督だけでなく、すべてのスタッフの「つながり」などをサポートします。撮影する時は、部署ごとにメモや写真付きメールで必要事項をチェックしておきますが、現場編集があれば正確です。小道具さん、メイクさん、衣装さんが多いですが、撮影部さんや照明部さんも以前撮影した正確なアングルや照明の具合を知るために利用します。
 
――クランクインに向けてどのような準備をしますか。
 
まずはシナリオを深く把握します。そうしてこそ、監督のサポートができるんで。韓国映画は事前に準備した絵コンテを元に撮影を進めるので、それも熟知して撮影に臨みます。
 
――韓国映画の撮影は基本3カ月と長いですから、スタッフがつながりに気を付けていても、時間がたつと曖昧になってしまいます。絵コンテからの変更もよくあって、追加のアングルや削除するカットは、現場編集を見ながら判断しますね。最近の韓国映画は撮影時間の上限が1日に12時間、週52時間と決まっていて、限られた時間の中で素早い判断が必要で、現場編集はその点でも重要です。
 

感情を正確につなげるため 俳優も現場編集をチェック

――ほとんどの役者さんが現場編集を見ますね。相手の演技やシーンの雰囲気など、編集されたものを見たほうが正確に確認できるので、現場編集は演技に役立っているのではないですか。
 
その日の撮影が終わった後、監督やスタッフと一緒に現場編集を見る役者さんがたくさんいます。また撮影は、シナリオの順番通りにはできません。これから撮るシーンが数日前や、時には数週間前に撮ったシーンの続きということも当たり前です。役者さんたちは感情を正確につなげて表現するために、以前撮ったシーンを現場編集で確認します。編集されてない単独のカットよりも、編集されたものを見たほうが、より細かく感情の流れを確かめることができると思います。
 
撮影の順序が逆になることもあって、それを確認する役者さんもいます。例えば、怒っている場面の前を撮るなら、どれくらいの感情まで上げておけばいいのかが分かります。
 
――現場編集を見ない役者さんもいますよね。
 
いますよ。「演技は瞬間的な領域にあるから、撮影した素材を見て計算して行うものではない」とか「公開するための最終的な編集じゃないから見る必要はない」という人もいます。

公開用の本編編集にそのまま使うことも

――現場での編集とクランクアップ後に行う編集(本編編集)はどう違いますか。
 
本編編集は公開するためなので、必要がないと判断された場合はシーン自体を削除したり、順番を変えて再構成したり、セリフを削除したり追加したりすることも可能です。ですが、現場編集は個人的にこのシーンはなくてもいいと思っても、削除することはできません。どのシーンの撮影を行ったか確認できなくなるからです。
 
私は必要のないカットを使わない時もあります 。でも編集技師の中には「現場編集は撮影した全てのアングルが必ず入ってないとダメだ。じゃなければ、現場でどのようなアングルを撮影したのかわからなくなる」という人もいるようです。
 
ただ、最近はほとんどの編集技師が現場編集を参照していると思います。というのも、監督によって違いますが、現場編集には監督の意見がかなり含まれているからです。「監督バージョンの編集」と呼ぶ監督もいます。編集技師は、監督がどのような編集を好むかを現場編集で確認するし、「参考のために見てください!」とはっきりと言う監督もいます。編集的に監督のこだわりが含まれたシーンは、現場編集をそのまま本編の編集に使用することもあります。
 
編集技師は現場で撮影した膨大な量のカットを確認しますが、現場編集を見ただけで、どんなアングルがあるかを素早く把握することも可能だと思います。
 
――現場編集のランニングタイムで撮影しすぎていないかも判断しますよね。撮りすぎていたら、本編編集の時に削除するカットやシーンが多くなり問題になります。


音楽と効果音付き 撮影終わったばかりなのに

――ハムさんと仕事した時、その日の最後のカットの編集が、OKの直後に終わっていて驚きました。しかも、音楽と効果音までがついていた。最初は最近の現場編集はここまでするのか!?と本当に驚きました。最近の現場編集さんは皆さん、音楽や効果音をつけるんですか?
 
昔の現場編集は単純に絵コンテ通りにつなげる程度だったと聞いていますが、7、8年前から音楽や効果音をつけるようになったと思います。今は、ほとんどの現場編集さんがそうしているはずです。現場編集でもより完成体に近い状態で確認してもらった方がいいと思うので。クオリティーがどんどん上がっています。
 
――音楽や効果音は、事前に準備しておくんですか?
 
音楽はクランクイン前に、シナリオを把握しながら幅広く探しておきます。映画のサントラの場合もあれば、歌謡曲のインストの場合もありますし、あまり知られていないボーカルありのインディーズ音楽だったり、クラシックだったり。その映画によってバラバラです。
 
効果音も、どんな音が必要になるかわからないので、ひと通り準備しておきます。アクション映画は殴る、蹴る、倒れるなどのサウンドが中心なのでそう多くないのですが、アクション以外の場合は種類が多いので時間がかかります。

――そもそもなぜ、音楽までつけるのでしょう。監督が思い描く音楽と違うこともあるのでは。
 
悲しいシーンにも、いろんな悲しさがあると思います。深い悲しみだったり、静かな悲しみだったり、淡々とした悲しみだったり。音楽があれば、その度合いを表現することができます。あくまでも雰囲気を表現するためですが、監督がこの音楽は違うと言った場合は、私が考えていたのと、監督が演出したい方向性が違ったということになります。そういう時でも、監督が意図する雰囲気を説明してもらうなどコミュニケーションをとれば、より監督の方向性に近い編集ができるようになります。
 
――CG(コンピューターグラフィックス)作業をする場合もありますよね?
 
簡単な合成なども行います。あと、火花や血しぶきなどもつけます。ラフな素材だとしても、ないよりかはあったほうが断然いいので。


 

速さの秘密は撮影中の脳内編集

――現場編集の仕事の流れを教えてください。
 
一般的にはクランクインの1~2週間前にテスト撮影を行うんですが、そこから合流します。クランクアップしてからも現場編集を完成させる必要があるので、1~2週間後くらいまでですかね。撮影がない日も、たいてい仕事をしています。現場ではやはり時間がないので、ラフにつなげた部分の精度を上げたり、音楽を変えてみたり、効果音を追加したりといった作業をしています。監督と編集の修正をすることもあります。監督は撮影した素材を改めて確認して、今後の撮影に役立てます。
 
――韓国では監督、キャスト、スタッフ以外にも、製作会社や投資会社にも現場編集を見せます。
 
製作会社や投資会社の方々は毎日現場にいるわけではないので、定期的に編集を見せる必要があります。例えば、2~3週間に1度だったり、撮影10日に1度だったりと、映画ごとに違います。
 
――音楽から効果音、CGまで編集以外にも作業量が多く、現場編集はスピードが命だと思います。そもそもなぜそんなに早く編集ができるんですか?
 
いつも頭の中で編集をしています。セッティングしている時から、今回のカットはどのように使うかシミュレーションしています。本番を見ればどこを使えばいいかが分かるので、すぐに編集できます。ただ絵コンテとは全然違う撮影になると、うまくいきません。また感情的なシーンも編集に時間がかかります。役者さんの感情に合わせて編集をしなければならないので、あらかじめシミュレーションができないのです。逆にアクションシーンは、撮影するカットが決まっていますし、カット一つ一つが短いので、比較的早く編集できます。
 
――カメラは必ずしも1台とは限りません。韓国映画のスケールが大きくなったこともあるし、撮影時間の制限もあるので、一度に数台のカメラを回すことが増えました。複数のカメラで撮った素材に問題がないか、編集してみないと判断ができなくなっています。現場編集も大変でしょう。
 
最初は難しかったですが、必ずメインのカメラがあるので、そこを中心に考えます。そして、セッティング中からどのアングルのどの部分を使うかをシミュレーションしておいて、カットがかかったら、必要な部分だけをパソコンに取り込んで、すぐに編集します。
 
もう1テーク撮るか撮らないか、現場編集を見て判断するので責任重大です。スポーツ映画や戦争映画は何度も撮影できなかったり、もう1テークいくならセッティングに時間が必要だったりします。時間と予算を節約するために、このような時こそ現場編集が必要ではないでしょうか。
 
――現場編集は1人の部署だと思っていましたが、最近では現場編集助手がいると聞きました。現場編集部!
 
カメラが数台必要な規模のシーンを撮影するときは、素材をキャプチャーするのに結構な時間がかかるので、時々ですが助手をつけます。また予算に余裕がある作品では、編集作業に集中するために、キャプチャーや各部署からのつながり確認の作業などは助手に任せる場合もあります。
 
【後編に続く】
韓国映画「現場編集」知られざる役割 後編:技術と演出感覚養い監督をサポート

ライター
藤本信介

藤本信介

ふじもと・しんすけ 1979年生まれ。金沢市出身。大学在学中の2001年に韓国の国民大学で1年間の留学生活を送る。韓国人と韓国映画に魅了され03年、韓国映画に関わりたい一心で再び渡韓。韓国を拠点に助監督や通訳スタッフとして映画製作に関わる。22年5月13日公開の李相日監督の「流浪の月」に通訳スタッフ、同6月24日公開の是枝裕和監督「ベイビー・ブローカー」に助監督で参加。その他の参加した作品に「お嬢さん」「アイアムアヒーロー」「美しき野獣」「悲夢」「蝶の眠り」「アジアの天使」などがある。 

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