「仏教の次に映画が大好き」という、京都・大行寺(だいぎょうじ)住職の英月(えいげつ)さんが、僧侶の視点から新作映画を紹介。悩みを抱えた人間たちへの、お釈迦(しゃか)様のメッセージを読み解きます。
2024.3.29
「あまろっく」 人生の見方変えた父親の〝年の差婚〟:英月の極楽シネマ
笑福亭鶴瓶と中条あやみが45歳差の夫婦を演じるこの映画。ちょっとムリがあるのでは?と思いましたが、これがお似合いに見えてくるから不思議です。
巨大な閘門(こうもん)、通称「尼ロック」によって水害から守られている兵庫県尼崎市。この地で町工場を営む両親のもとに生まれた優子(江口のりこ)は、能天気な父・竜太郎(松尾諭・鶴瓶)のようにはなりたくないと何事にも全力投球。おかげで、子どものころから勉強もスポーツも優秀ですが、協調性がなく、孤立しがち。それが災いして、勤めていた東京の大手企業で理不尽なリストラに遭います。
努力したのに報われず、居場所がなくなった彼女は、母亡き後、父が一人で暮らしている実家で暮らすことに。しかし、その父親が再婚。おまけにそのお相手の早希(中条)は優子より19歳も年下の20歳で、家族だんらんを夢見てすべてにおいて前のめり気味です。生活のペースを乱されて優子のイライラも頂点に。そんな時、ある悲劇が起こります。
しかし、その出来事をきっかけにして優子は、努力とは関係なく、自分は無条件に大切にされていたという事実に気づかされます。すると、今まで見ていた過去の出来事の意味が変えられていくのです。例えば、職を失い帰って来た自分を「祝リストラ」と書かれた手作りの横断幕や赤飯で迎えた父。腹立たしく思っていた無神経さが、実は父なりの優しさだったのではないか、と。同じように、年下の義母との関係も、少しずつ変わっていきます。悲劇が悲劇で終わらず、家族それぞれの再生の大事な縁となっていくのです。その姿に、竜太郎の口癖「人生に起こる事はなんでも楽しまな!」が重なります。
4月19日から東京・新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマほかで公開。兵庫県内では同月12日から先行公開。