「グリーン・ナイト」© 2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved.

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2022.11.25

この1本:「グリーン・ナイト」 奇想の美あふれる冒険

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

「セインツ 約束の果て」で注目されてから、新作を心待ちにするファンが増えているデビッド・ロウリー監督、新作は中世のアーサー王伝説に登場する騎士の冒険ファンタジーである。根本は「スター・ウォーズ」に通じる英雄譚(たん)だが、波瀾(はらん)万丈の活劇よりも独特の世界観と映像美に圧倒される。

アーサー王のクリスマスの宴会に、全身緑色の騎士が現れた。騎士は居並ぶ円卓の騎士に「ゲームをしよう」と誘いかける。自分の首をはねた者にオノを与える、その代わり1年後に自分を捜し出して首をよこせというのだ。騎士が尻込みする中、青年ガウェイン(デブ・パテル)が進み出て、騎士の首を切り落とす。騎士は悠々と首を拾い上げ、1年後に待っていると立ち去った。

物語は不可解だ。まずゲームの意味が分からない。勝っても見返りがない。なんでわざわざ相手を捜し出して、首を切られに行かねばならないのか。見ている方の疑問をよそに、1年後にガウェインは約束通り旅立つのである。

緑の騎士をはじめ、登場人物はことごとく謎めいている。魔女のようなガウェインの母親、旅の途中で出くわす盗賊たち、裸の巨人。たどり着く城とその主人。そんな異形の者たちが、説明なしに次々と登場し、通り過ぎる。

登場人物も彼らとの挿話も、神話的で寓意(ぐうい)に満ち、さまざまな解釈ができそうだ。緑の騎士を自然の象徴として、1年の間に死と再生を繰り返す緑の循環と、人間との相克を読み取るというような。ただそんな解釈は、後からゆっくり考えればよい。まずは画面に浸るべし。目にも心にも突き刺さるような、時にグロテスクで不気味、そして力強く美しいイメージの連なりは、唯一無二のロウリー映画である。2時間10分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(勝)

ここに注目

アーサー王にまつわる壮大なストーリーと思って見始めると、ガウェインが言い訳ばかりのなかなか怠惰な人間として描かれていて、神話や英雄を捉え直すような試みに監督の独創性を感じた。

まだ語るべき物語を持たない主人公だからこそ、冒険を通して自分と向き合っていく過程に引き込まれる。パテルが見せる情けなさが漂う表情も、この旅に説得力を与えている。言葉を話すキツネやさまよう巨人などのキャラクターや、自然光を生かしたほの暗い映像も魅力的。大人の心にこそ響く映像美あふれるダークファンタジーだ。(細)

技あり

アンドリュー・ドロス・パレルモ撮影監督がガウェインの冒険旅行を撮る。旅の途中、ガウェインが森で追い剝ぎに襲われ、縛られて放置される。カメラは上手へ360度回って彼の白骨を見せ、下手へ360度戻ると生きた姿になる。己が白骨体を見て奮起し、脱出するが試練は続く。遭難寸前、霧の中に城を見つけ歓待される。彼に岡ぼれした城の奥方は、湿板写真の技法で肖像を残したがる。ガラス板に膠(にかわ)液を塗るはけの使い方など芝居はリアルだが、この時代に湿板写真はない。ガウェインの旅で、いろんな撮影術が試された。(渡)

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