のさりの島 c)北白川派

のさりの島 c)北白川派

2021.5.27

時代の目:のさりの島 虚実のあわい、心地よく

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

熊本・天草の寂れた商店街にやって来た、オレオレ詐欺の男(藤原季節)。楽器店主の艶子(原知佐子)から金をだまし取ろうとする。艶子はなぜか、男を孫の将太と呼んで迎え入れ、奇妙な同居生活が始まった。コロナ禍の疲れた心にじわりとしみる佳作である。

艶子は男がニセモノだと気付いている。男もそれを悟っている。それでも孫とばあちゃんとして、いたわり合いながら日常を営んでゆく。偽りの現実に本物の感情。虚実のあわいを漂う関係性が、危なっかしくも心地よい。

地元FM局のパーソナリティー清ら(杉原亜実)たち地域の若者が、昔の商店街の映像を集めて上映会を計画している。男は清らにひかれて集まりに加わるものの、男女の仲に偽りはご法度。調和はかげろうのように瞬時に消える。

ウソは褒められたことではないだろうが、ギスギスした世の中に白黒付けすぎなくてもいいかもしれぬ。映画だって、ウソから真実を描くではないか。「のさり」は天草の方言で「全ては天からの授かり物」という考え方。ひょうひょうとした原の演技に、心が和む。これが遺作となった。山本起也監督。2時間9分。東京・ユーロスペース(29日から)。大阪・シネ・リーブル梅田ほかでも近日公開。(勝)