「よだかの片思い」©島本理生集英社 ©2021映画「よだかの片想い」製作委員会

「よだかの片思い」©島本理生集英社 ©2021映画「よだかの片想い」製作委員会

2022.9.16

時代の目:「よだかの片想い」 〝見た目〟と対峙する冒険

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

島本理生の同名小説の映画化である。大学院生アイコ(松井玲奈)は生まれつき顔に大きなアザがあるせいで、殻に閉じこもったような日々を送っていた。そんな彼女が取材を受けたルポ本が大きな反響を呼び、映画化の企画が持ち上がる。やがてアイコは監督の飛坂(中島歩)と恋に落ちるが……。

小学生の時に同級生にアザを嘲笑され、教師に同情されたことがトラウマになっているアイコは、はかなげで何事にも臆病そうな印象を与える女性だ。しかし衝動的な片想(かたおも)いから始まる恋物語は、彼女の秘めたる多様な側面をあぶり出していく。不器用で傷つきやすい半面、いちずな激情の持ち主。外見からはうかがい知れない複雑で豊かなキャラクターを体現した松井の演技、それを引き出した安川有果監督の描写力に魅了される。

ふわふわした甘ったるい恋愛映画ではない。これは自身を抑圧する〝見た目〟と対峙(たいじ)し、痛いほどもがきながら解き放たれていく主人公の変容と冒険の軌跡だ。今の時代を射抜くその主題を、ガラス/鏡というモチーフを用いて獰猛(どうもう)かつスリリングに映像化したクライマックスに胸を突かれる。脚色を手がけたのは城定秀夫。1時間40分。東京・新宿武蔵野館、大阪・テアトル梅田ほか。(諭)

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