「すばらしき世界」より © 佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

「すばらしき世界」より © 佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

2023.12.13

「孤狼の血」「VIVANT」で躍動! 「PERFECT DAYS」でカンヌ戴冠した役所広司の充実した近年のキャリアを振り返る

今年、カンヌ国際映画祭の男優賞を受賞した役所広司。受賞した「PERFECT DAYS」の公開に合わせ、年齢を重ねただけ魅力が増す、役所広司のフィルモグラフィーから近年の出演作をピックアップします。

SYO

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役者とはその名の通り「役を演じる者」であり、演じることに存在意義があると考えるならば、本人が役より前に出すぎてはならない。ただそれは難しい相談で、「スター」という言葉があるように優れた才を持つ役者は綺羅(きら)星のように扱われる。耳目を集め、支持され、大衆を感動させながらもつつましやかにいられるか――。その答えが、役所広司にはあるような気がしてならない。
 

「PERFECT DAYS」より ©️2023 MASTER MIND Ltd.

45年ものキャリアの中、一つの到達点となった「PERFECT DAYS」

 「Shall we ダンス?」「うなぎ」「失楽園」「CURE」「バベル」「関ヶ原」「三度目の殺人」等々、約45年のキャリアの中で数え切れないほどの役どころを託され、人間味がにじむような名演で応えてきた。「人間味」と評したが、役所の芝居にはただ「うまい」という技術面だけでなく、こちらが信じられる/信じたくなる心の安心感が備わっている。
 
日本を代表するスターでありながら遠くに行きすぎず、親しみ深くも淡々としており、清廉な存在であり続けるような――。カンヌ国際映画祭男優賞を受賞した「PERFECT DAYS」(12月22日公開)にも通じるつつましい精神性を感じるが故だろう。ヒット商品となったマルちゃん正麺が発売された2011年当初、CM上で役所が発した「ウソだと思ったら食べてください!」にまんまと動かされてしまったのは、自分だけではないはずだ。
 
「人柄」と一言で片づけるには深すぎる、人格者という他者からの認知、それを裏付けるひたむきな役者道。役所広司は「変わらない」からこそ、画面の中では大胆に「変わる」。
 

(左上から時計回り)「陸王」「峠 最後のサムライ」「窓ぎわのトットちゃん」「THE DAYS」
©池井戸潤 ©TBS ©2020『峠 最後のサムライ』製作委員会 ©黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会 ©2023 Netflix, INC.

バリエーション豊かな近年の出演作

ここ5、6 年の歩みに絞っても、「陸王」「七つの会議」「いだてん〜東京オリムピック噺〜」や「峠 最後のサムライ」といった大御所ならではの作品もあれば、日中合作映画「オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁」では4カ月の長期撮影に臨み、アクションにもチャレンジ。常連である細田守監督のアニメーション映画「竜とそばかすの姫」や、黒柳徹子の自伝的作品を劇場アニメ化した「窓ぎわのトットちゃん」では声優として起用された。
 
東京電力福島第1原子力発電所事故を題材にとったNetflixシリーズ「THE DAYS」では並々ならぬ覚悟で主演を務め、物語をけん引した。
 
かと思えば、「PERFECT DAYS」で演じたのは東京・渋谷区のデザイナーズ・トイレの清掃員にふんし、日々を丁寧に慈しみながら生きる〝清貧〟を体現し、カンヌで戴冠。同作のクライマックスに用意された「車を運転する主人公の感情表現」は圧巻で、役所の名演は語り草になるに違いない。同作は来年度(第96回)の米アカデミー賞国際長編映画賞日本代表作品にも選出されており、この先さらなる波を世界規模で呼び起こすことだろう。
 

「孤狼の血」より ©2018 「狐狼の血」製作委員会

二面性ある謎めいた役や居場所を見つけられない男役でインパクトを残す

 こうした多彩な作品歴の中でも特に目立つのは、自身のイメージを利用した「善玉か悪玉かわからない」二面性のあるキャラクターでの躍動。「孤狼の血」「すばらしき世界」「VIVANT」がそれにあたる。「孤狼の血」では「傍若無人な極悪刑事」を熱演。これまでもアウトロー役は経験していたものの、ここまで強烈なインパクトを残すダーティーな役どころは見る者にとっては初めてに近かったのではないか。
 
「警察じゃけえ、何をしてもええんじゃ」等の広島弁のセリフはミーム化され、役所の新たな当たり役となり、シリーズ化の呼び水となった。しかも本作で演じた大上は、ワルだと思っていたら実は己が汚れ役となり治安維持に奔走していたというダークヒーロー的なポジション。「日本のいちばん長い日」等で共演していた松坂桃李ふんする部下への〝継承〟も、見る者の胸を熱くさせた。
 
「すばらしき世界」では、久々にシャバに出てきた元・殺人犯を見事に見せきった。一見すれば気のいい男だが、怒りのスイッチが入ると周囲を恐れさせてしまう主人公・三上。「今度こそは」と再起を図るも、昔のように単純明快な社会ではなくなり、居場所をなかなか見つけられず……という痛切な物語が展開していく。
 
さまざまな人々の支援を受けて介護職にありつくが、施設内では職員によるいじめが横行。正義感にかられて鉄拳制裁しようとするも、この場所を失うまいと自分を殺し、歯を食いしばって耐えるシーンが心痛だ。「すばらしき世界とは?」というメッセージを訴えかけるものとなっており、役所の芝居がそのまま、物語上のキーであり作品上のテーマとして機能している。
 

「VIVANT」より ©TBS

「VIVANT」「PERFECT DAYS」の演技で魅了。次のチョイスに注目

大いに話題を集めた大作ドラマ「VIVANT」では、国際的テロ組織のリーダーと目される謎の男ノゴーン・ベキを威厳たっぷりに演じた。当初こそ日本の治安を守る「別班」所属の主人公・乃木憂助(堺雅人)の標的だったが、中盤で彼の生き別れになった父・卓であることが判明。
 
そこからは父親としての情があふれ出し、それでいて組織の長として息子であっても特別視しない厳しい態度も見せ、見る者のベキ/卓に対する印象が局面ごとに変わっていく(最後の最後まで善玉か悪玉か確信が持てない)面白さを生み出していた。いわば、役所広司の芝居に翻弄(ほんろう)される快感を味わえた作品であろう。
 
先述した「PERFECT DAYS」はユニクロとビム・ベンダース監督が組んだプロジェクトであり、「VIVANT」は国内地上波ドラマの通説を覆すようなスケール感が売りの作品。斬新な企画への嗅覚も、役所広司の武器といえる。粛々と活動しながら、毎回何かしら仕掛けてくる静かなるエンターテイナーの次なる一手に、期待したい。
  
<画像使用作品>


「すばらしき世界」
Blu-ray & DVD発売中
Blu-ray:5500円(税込み) DVD:4180円(税込み)
発売・販売元:バンダイナムコフィルムワークス
※2023年12月現在の情報です。

 

「PERFECT DAYS」
12月22日(金)全国公開


 「陸王」
 U-NEXT Paraviコーナーで全話配信中
※2023年12月現在の情報です
©池井戸潤 ©TBS


「峠 最後のサムライ」
DVD:4180円(税込み) Blu-ray:7480円(税込み)
※2023年12月現在の情報です。

 

「窓ぎわのトットちゃん」
全国公開中

 

「THE DAYS」
Netflixで配信中
※2023年12月現在の情報です
 


「孤狼の血」
Blu-ray & DVD発売中
Blu-ray:3850円(税込み) DVD:3080円(税込み)
発売元:東映ビデオ
販売元:東映
※2023年12月現在の情報です。


「VIVANT」
U-NEXT Paraviコーナーで全話配信中
福澤克雄監督ら演出陣が語る『VIVANT別版 ~副音声で福澤監督が語るVIVANTの世界~』はU-NEXT独占配信中
©TBS

ライター
SYO

SYO

1987年福井県生まれ。東京学芸大学にて映像・演劇表現を学んだのち、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て2020年に独立。 映画・アニメ、ドラマを中心に、小説や漫画、音楽などエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。トークイベント、映画情報番組への出演も行う。