第76回毎日映画コンクール 録音賞 浦田和治「孤狼の血 LEVEL2」

第76回毎日映画コンクール 録音賞 浦田和治「孤狼の血 LEVEL2」

2022.3.04

録音賞 浦田和治「孤狼の血 LEVEL2」 聞こえて当たり前 最高点がゼロなんです

日本映画大賞に「ドライブ・マイ・カー」

男優主演賞 佐藤健「護られなかった者たちへ」
女優主演賞 尾野真千子「茜色に焼かれる」


第76回毎日映画コンクールの受賞作・受賞者が決まりました。2021年を代表する顔ぶれが並んでいます。受賞者インタビューを順次掲載。
1946年、日本映画復興を期して始まった映画賞。作品、俳優、スタッフ、ドキュメンタリー、アニメーションの各部門で、すぐれた作品と映画人を顕彰しています。

ひとしねま

ひとシネマ編集部

映画人がいちばんほしい賞


「映画人がいちばんほしい賞だと思うんです、毎日映コンは。活劇は賞を取らないと思っていたから、驚いた」。そう言って受賞を喜んだのは、録音賞の浦田和治だ。毎日映画コンクールは、技術部門にも賞を設けている数少ない映画賞だ。選考にはベテラン技師も加わって、作品の総合的な評価と専門的な知見を合わせながら討議する。
 
選考会では「セリフの音の調整が完璧だった」と評価された。それこそ狙ったところ。「セリフが聞こえて当たり前、聞こえない、ひずんでるといわれたらマイナス。録音の仕事は最高がゼロなんです」。0点を取って喜ぶのは、録音技師ぐらいのものだろう。
 
「きちっと細部までセリフが聞こえることで、客に伝わる度合いが違う。こういう映画は、一つのカットの中で、ウィスパーからガーンとくる怒鳴りまである。俳優さんも、テストと本番では声の出し方が違う。テストを見ながら、この俳優さんはここできっと怒鳴るよねと予想する。仕上げでどうにかなるものじゃない。現場の録(と)りから適正レベルでなければ」

 

音を意識しないで没入するのが一番

苦労したのは雨の中のアクション場面だった。俳優たちが動きながら、さまざまな調子と大きさの声でセリフを言い合う。しかも雨が地面をたたく音がセリフをかき消してしまう。アフレコで録り直す方法もあるが、本番の緊張感を再現するのは俳優にとっても負担が大きい。
 
「白石組の雨の降らし方は強烈なんですよ。でも、強くなく弱くなく、きれいな降らせ方をしてくれた。現場で録ったセリフの音をそのまま使えたんですよ」。雨を降らせるのは特機部の仕事。ここにもプロの腕がある。
 
セリフが自然に聞こえるということは、明瞭というだけではない。俳優の位置、動き、アップかロングか、同じセリフでも聞こえ方は変わる。音にも「遠近感」があり、そぐわないと映画への没入の妨げとなる。
 
「『孤狼の血』のようなアクションは、画面に合わせて音を振ります。でも、画面に音源がなくても、音をセンターにする場合もある。画(え)と編集で、音の構成も変わる。芝居に即してセリフが自然に聞こえて、お客さんが音を意識しないで入り込める。それが、一番いい音じゃないですか」
 


音は芝居の中にある

元々は京都の演劇青年だったが、モノにならずに上京し、知り合いに誘われて録音の手伝いをするようになる。柳町光男監督のドキュメンタリー「ゴッド・スピード・ユー!BLACK EMPEROR」(1976年)で、いきなり録音を任された。「手伝いのつもりで現場に行ったら、録音技師が来ない。録音機材なんか見たこともないのに、柳町が『マイクと録音機あれば、お前が録れるだろ』と」。そこから自主製作の現場に参加し、メジャー作品の助手に付いて仕事を覚え、技師となって経験と実績を重ねてきた。
 
毎日映コンで5度も録音賞を受賞した西崎英雄や、音響効果の本間明に付き「映画の作り方とか、音の構成の仕方、物の見方も教わった」という。「音が単独であるのではなく、芝居がいちばん大事。音の構成も含めて、芝居の中にあるんです」
 
後進を指導する立場にもなり、若い人たちには「シェークスピア、近松門左衛門、ギリシャ悲劇」を勧めるという。「いまだに上演され続けるには理由がある。きっと役に立つ」。人間の心の機微を知らなければ、いい音は録れないのだ。
 

ライター
ひとしねま

ひとシネマ編集部

ひとシネマ編集部

カメラマン
ひとしねま

内藤絵美

ないとう・えみ 毎日新聞写真部カメラマン