©Asmik Ace.Inc. ©安田弘之(秋田書店)2014

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2023.2.20

「ちひろさん」的生き方、孤独を手放さず、抱きしめて、大切にできた人って最強じゃん 

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

青山波月

青山波月

今泉力哉監督が大好きだ。

「街の上で」の下北沢聖地巡礼をするくらい好きだ。
渋谷にある映画バー「八月の鯨」で「愛がなんだ」のカクテルを頼むくらい好きだ。
自他共に認めるツイ廃の今泉監督のことだから、「窓辺にて」の私の感想ツイートにいいねしてくれると思ったのにいいねしてくれなかったから、この際記事を書いて何が何でもいいねさせてやると思ったのに、しれっとFilmarksに書いた惰性の感想にいいねしてくれているのをさっき発見してうれしさとか悔しさとか色んな感情が混沌(こんとん)としているくらいに好きだ。
なんで、そんなに今泉監督に憧憬(しょうけい)の念を抱いているのかと言うと、私は今泉監督の描く人間が好きだからだ。今泉監督の作品には必ずちょっと変な人が出てくる。今泉監督の新作「ちひろさん」も変な人が結構出てくる。



ちひろさんは、元風俗嬢で今は海辺の町のお弁当屋で働いている。つかみどころがなくて自由なちひろさんと、それぞれ孤独を抱える町の人々との交流を通し、家族の在り方や、寂しさや孤独との向き合い方を考えさせられる今作品。
今回も変な人を描くのがうまいな〜、多分というか絶対監督自身も変な人なんだろうな〜、この「変」の在り方というか方向性が私は羨ましく思ったりするんだよな〜。なんというか、自分のピッチが合った世界で生きている人たちという感じがするのだ。

私はたまに、本当はアルトなのに、無理やりソプラノに合わせて歌っているような息苦しさを感じることがある。ピッチが合ってないな〜苦しいな〜って思った時に、今泉監督の作品を見ると、自分の中の音を調律するような気持ちになる。自分の音域が合った場所にいればいいんだ。居やすい自分でいていいんだって思う。今作「ちひろさん」も例に漏れず私の調律師となってくれた作品だ。

ちひろさんが風俗嬢として働いていた時のお客さんの言葉にこんな言葉がある。「僕たちはみんな、人間っていう箱に入った宇宙人なんだ。やってきた星がバラバラなんだから、分かり合えないのが当然なんだよ」。この言葉を聞いた時、あー、そうか。分かり合えなくて当然なんだ、って思って、なんか少し楽になった。人間同士、分かり合えることが前提で生きてきた。家族とか、恋人とか、友人とか、分かり合えなくちゃと思っていた。それで、苦しい思いを何度したことか。星がバラバラなんだから分かり合えないのが当然な上で、でも分かろうとする努力とか、分からないけど尊重する意識とか、ちひろさんはそういった心構えを持っているような人だった。
きっと、自分と同じ星の人とか、星は違うけど居心地の良い人がいつか見つかるはず。自分のピッチが合う相手を大切にしたら良いのだ。


「病み期」って誰にでも訪れるよね。何もしたくないとか、なぜか涙があふれてしまうとか、苦しかった過去を頻繁に思い出してしまう日々とか。それでも、毎日は続いていて、仕事に行って、家事をして、笑っていなければならない。現代スパルタすぎません? 一人でもいいから、お休みしていいよって言ってくれる人がいたらな〜と常に思う。

「ちひろさん」の登場人物たちは、そんな時「水の底に沈んでていいよ」って言う。魚は眠る時、水の底に沈んでいて、起きると浮かんでくるそうだ。人間はもがくから沈むのであって、自然に身を任せていれば人間の体もいつかは浮くようにできているらしい。いや、なんか、表現が洒落乙(しゃれおつ)すぎる。病んだ時、「今、水の底にいるんです〜」って一本電話したら、「そっか、じゃあ浮かぶまで待ってるね」と言ってくれる人がいたら、この日本のどれだけの人が救われるだろうか。なかなか、家に巣ごもりなんてできないけど、もし水の底にいたい時は、頑張って浮かんでこようともがかなくていいし、浮かぶことを待ってくれる周りの人に頼っていいんだよって、ちひろさんたちが教えてくれた。

「あなたなら、どこでも孤独を手放さずにいられる」とある登場人物が、ちひろさんに向けて送った言葉。「孤独を手放さずにいられる」って、すっげーなと思った(語彙=ごい=力皆無)。私の尊敬する先輩が「孤独を抱きしめられる」という言葉を放った時と同じくらい、孤独に対する概念のぶち壊しワード。


今泉監督はツイッターで、有村架純さんのような孤独やさみしさを大切にすることの意味を理解してくださる方がちひろさんを演じてくれてよかったと書いている。(監督はツイ廃だからもうツイートは消えているかも)なんか、孤独って受動的にさせられるものじゃなくて、能動的に大切にしていいんだな。なんだ、孤独を毛嫌いする必要全然ないじゃん。孤独を手放さず、抱きしめて、大切にできた人って最強じゃん。ちひろさんの姿を見ていると、そんなふうに思う。

映画「ちひろさん」には、誰かが抱える孤独とかさみしさとか、そういう感情を否定も矯正もせず、ただ寄り添ってくれる映画だ。この映画は誰かにとっては救いで、誰かにとっては逃げ道で、誰かにとっては我が家みたいな存在になるかもしれない。私にとっては、肯定だった。
あなたもぜひ、ちひろさんに会いにきてみてはいかがだろうか。

2 月 23 日(木・祝) Netflix 全世界配信&全国劇場にて公開

ライター
青山波月

青山波月

あおやま・ なつ 2001年9月4日埼玉県生まれ。立教大学現代心理学部映像身体学科卒業。埼玉県立芸術総合高等学校舞台芸術科を卒業後、大学で映画・演劇・舞踊などを通して心理に及ぼす芸術表現について学んだ。現在は英国在住。
高校3年〜大学1年の間、フジテレビ「ワイドナショー」に10代代表のコメンテーター「ワイドナティーン」として出演。21年より22年までガールズユニット「Merci Merci」として活動。好きな映画作品は「溺れるナイフ」(山戸結希監督)「春の雪』(行定勲監督)「トワイライト~初恋~」(キャサリン・ハードウィック監督)。特技は、韓国語、日本舞踊、17年間続けているクラシックバレエ。趣味はゾンビ映画観賞、韓国ドラマ観賞。

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