クローブヒッチ・キラー

クローブヒッチ・キラー

2021.6.10

特選掘り出し!:「クローブヒッチ・キラー」 揺らぐ日常、少年の不安

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

連続殺人事件を題材にしているが、直接的な猟奇描写は一切ない。「自分の父親はシリアルキラーかもしれない」という疑念を抱いた16歳の少年の不安をあぶり出す一級の心理サスペンスだ。

巧みな話術でサプライズ

設定からして興味深い。舞台となるのは、キリスト教が根づいた米ケンタッキー州の小さな町。主人公タイラー(チャーリー・プラマー)は、ボランティア活動にも参加する模範的な少年だ。地域のリーダー的な存在の父親ドン(ディラン・マクダーモット)との仲も良好だが、彼こそは10年前に地元を震撼(しんかん)させたクローブヒッチ・キラー(巻き結び殺人鬼)なのではないかという疑いが浮上。信仰と絆を重んじる家族、保守的なコミュニティーの下で育った少年の日常が根底から揺らぎだす。

大人への通過儀礼というには、あまりにも残酷な試練。やがて再び殺人鬼が動き出し、思春期の少年が恐ろしい真実に触れてしまった時、何が起こるのか。その濃密なスリルがエンディングまで持続する。ストーリー展開そのものにはひねりを加えず、意表を突いた〝視点〟の切り替えによってサプライズを生み出す話術もお見事。ダンカン・スキルズ監督。1時間50分。東京・新宿武蔵野館、大阪・シネマート心斎橋ほか。(諭)

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