「グランツーリスモ」プロデューサーのアサド・キジルバッシュ=提供写真

「グランツーリスモ」プロデューサーのアサド・キジルバッシュ=提供写真

2023.9.20

「原作ファンの専門家チームで〝鬼門〟を〝ドル箱〟へ」 ゲームIPは宝の山になるか ソニー「グランツーリスモ」プロデューサーに聞く

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

山口敦雄

山口敦雄

ゲームの映画化は興行的に成功しない――。任天堂の人気ゲーム原作のアニメ「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」が世界的に大ヒットし、業界の常識が覆りつつある。ソニーのプレイステーション用ゲームの映画版「グランツーリスモ」も公開中だ。同作のアサド・キジルバッシュ・プロデューサーに、ゲームの知的財産(IP)を活用した映画化戦略を聞いた。


ソニー傘下の映画とゲーム 連携強化

ギジルバッシュは、ソニーグループの「ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)」でゲームの映画化を担う専門チーム「プレイステーション・プロダクションズ」の統括責任者。グループは映画会社「ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)」を収めるが、映画事業、ゲーム事業ともに独立性が強く、連携があまりなかった。
 
そこで2019年に、ゲームIPを実写化する専門チーム「プレイステーション・プロダクションズ」を立ち上げた。キジルバッシュはその立ち上げ時から中心的な役割を果たした。「(プレイステーションには)素晴らしいゲームIPのライブラリーがある。それを新しい消費者に届けたいという思いが、専門チーム設立の原動力となった」
 
01年に公開された映画版「ファイナルファンタジー」(元はスクエア・エニックスの人気ゲーム)の興行の失敗など、これまでゲームの映画化の興行に成功しないことが多く「鬼門」といわれていた。ゲームの世界観を大切にしなければならない一方で、忠実すぎると映画の物語としては物足りないといったジレンマがあるからだ。


「マーベル」成功をお手本に

「ゲームの映画化、実写化はなかなかうまくいかなかった歴史がある。そこで私たちはまず映画、ドラマの映像化にたけた専門家を集めることが大事だと考えた」。参考にしたのが、米ウォルト・ディズニーが09年に買収した、人気コミックを持つ出版社「マーベル」の実写化戦略だったという。映画スタジオ「マーベル・スタジオ」のケビン・ファイギ社長が中心となり、「アベンジャーズ」など豊富なキャラクターを生かした映画のヒット作を多く出していた。
 
「コミックスも映像化に苦労していた時代があった。その中でもうまくいっているのが、ケビンが率いるマーベルコミックスの実写化専門チームだ。メンバーはコミックスの大ファンで、原作にリスペクトを持って映像作品を作る仕組みがあることに着目した」。専門チームにはゲーム好きの映像製作者を集めたが、最大の鍵となったのはゲーム会社と映画会社の文化の違いを埋めることだった。キジルバッシュはサンフランシスコ郊外にあるSIE本社と、ハリウッドのSPEを何度も往復し、その違いを埋める努力をしたという。
 
「映画とゲームのカルチャーの違いは間違いなくある。大事なのは共通のゴールを設定することだ。質の高いストーリーテリングを求めているのは一番の共通点で、『最高の物語を伝えたい』という目的はゲームでも映画でも同じだ」


ゲーマーからレーサーへ 負け犬の逆転物語

これまでに「アンチャーテッド」の映画化や「THE LAST OF US」のHBOドラマシリーズ化に取り組んだ。「グランツーリスモ」は1997年に誕生し、全世界でシリーズ累計9000万本以上を売り上げている人気ドライビングゲーム。映画版は、ゲーム大会の優勝者が本物のプロレーサーになる成功物語だ。実在するイギリス人ドライバーのヤン・マーデンボローの実話に基づいている。
 
映画の主人公ヤンは幼少の頃からレーサーになるのが夢で、ゲーム「グランツーリスモ」の大ファン。ゲーム大会で優勝する腕前だった。そのヤンに、日産自動車などが主体となったドライバー育成発掘プログラム「GTアカデミー」からの招待状が届く。ゲームで腕を磨いた精鋭の中から本物のレースに参戦するドライバーを選抜する試み。GTアカデミーの最終選考に僅差で優勝したヤンはプロのドライバーライセンスを取得し、苦難を乗り越えながら世界3大レースの一つ、ル・マン24時間レースへの出場を果たす……。
 
「映画化したのは素晴らしい物語があったからだ。勝ちそうにない『アンダードッグ(負け犬)』のキャラクターが見事に勝ち上がっていく姿は、みなさん好きだと思う。私自身映画『ベスト・キッド』や『ロッキー』を見て育った。『グランツーリスモ』は皆さんの気持ちを上げて元気にしてくれる希望のある物語だ」


映像ノウハウと技術の総合力

「グランツーリスモ」では、超高速で走るレースカーの臨場感が味わえる。ソニーの高精細カメラを活用し、時速320キロのレースの世界を再現している。映画、ゲーム製作のノウハウ、エレクトロニクス技術など、ソニーグループの総合力が生かされた。ニール・ブロムカンプ監督の役割も大きかったという。
 
「ニールとの初期の会話を思い出すと、彼はクルマ好きで『グランツーリスモ』のゲームのファンだった。(『第9地区』や『チャッピー』など)これまではどちらかというとダークな作品が多かったが、今回は希望がある作品を作りたいと彼が望んでいた。実際のレースのシーンはカメラで物理的に撮影し、一方でコンピューターグラフィックス(CG)を自然に見せるのにもたけている。最高のレースシーンがこの作品にはある」


豊富なゲームを新しい消費者に

現在、SPEとの間で10の映像化プロジェクトが進行中だという。長崎県・対島を舞台にした時代劇アクションゲーム「ゴースト・オブ・ツシマ」の映像化もその一つ。「ジョン・ウィック」シリーズのチャド・スタエルスキが監督する。またアマゾンと古代ギリシャを冒険するアクションゲーム「ゴッド・オブ・ウォー」のドラマ化や、人類文明が滅亡した世界を舞台にした「ホライゾン・ゼロ・ドーン」をNetflixでドラマ化する企画も進めている。
 
「(ゲーム以外の)新しい消費者に素晴らしい物語、キャラクターを届けたい。SIEのIPライブラリーにはホラーやドラマ、アクション、家族ものなど多様な作品、ストーリーがある。テレビと映画は一つの道だが、パソコンやモバイルなどいろいろな媒体に伝えていきたい」

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ライター
山口敦雄

山口敦雄

やまぐち・あつお 毎日新聞経済部記者。1974年生まれ。明治学院大法学部卒、同大大学院経営学修士。ビジネス誌「週刊エコノミスト」編集部記者、毎日新聞出版図書第二編集部編集長、学芸部記者を経て経済部。経済部ではメガバンク、財界、デジタル庁などを経て、ビジネスサイト「経済プレミア」を担当。著書に「楽天の研究」(毎日新聞社)がある。