「HOW TO BLOW UP」©WildWestLLC2022

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2024.6.21

〝テロ助長〟FBIの警告に答える「今すぐ考え、行動を」 「HOW TO BLOW UP」ダニエル・ゴールドハーバー監督

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鈴木隆

鈴木隆

FBI(米連邦捜査局)が「テロを助長する」と警告を発したという問題作「HOW TO BLOW UP」。地球温暖化が進み、気候変動の脅威が差し迫る中で、米テキサス州の石油精製工場を手製の爆弾で破壊しようとする若者たちを描いたエコスリラーだ。環境問題の緊急性を考慮し構想から19カ月で完成。プロデュース、脚本も兼ねたダニエル・ゴールドハーバー監督は「考えるきっかけになることを望んでいる」と語った。


石油パイプラインを爆破する8人のZ世代環境活動家

環境破壊によって人生を狂わされたZ世代の環境活動家たちが、石油パイプラインを破壊する大胆な計画を立てる。石油精製所近くの有害物質汚染地域で異常な熱波のために母親を亡くしたソチ、掘削業者に居留地を侵略されたネーティブアメリカンで、独学で爆弾を作るマイケル、パイプライン建設のため政府から土地を奪われたドウェイン、工場による大気と水の汚染が原因で急性骨髄性白血病を患ったテオら8人は、グループチャットで連絡を取り合い、テキサス州西部の人里離れた納屋に集まった。誰も傷つけず、環境も汚染することのない石油パイプライン爆破計画を実行に移す。
 
環境問題を扱った作品は数多くある。しかしドキュメンタリーでは「映画の媒体としての力をすべて使い切れていない」と考えた。ドキュメンタリーだと、事実を検証し未来を予測して早急な対応を促すのがよくあるパターン。「幅広い観客に届けるにはどうしたらいいか考えた。彼らのような行動はまだ起きていないが、気候変動へのアクションはいろいろなレベルである。ただ、ターゲットをここまではっきりさせたものはない」と話す。


原作を脚色 リアルで今日的に

ゴールドハーバー監督は例をあげて説明する。「メディアが我々に語る報道やストーリーは抽象的だ。この映画ははっきりとした概念、アイデアとして見せる。人物もリアルだし、動機も共感できるエンタメとして、見ている側は自然に、彼らの行動に刺激を受けながら考えることになる」

さまざまなバックグラウンドを持ったキャラクターによって、なぜこんなことをするかが分かってくる展開。「チームで集まって大掛かりな何かをするジャンルの映画。動機も含め、知り合いのアクティビストの体験や、自分が聞いた話が基になっている」。ただ、原作はある。スウェーデンの気候変動学者アンドレアス・マルムの著書「パイプライン爆破法 燃える地球でいかに闘うか」を大胆に脚色し、「異なる動機を持った多様性のあるグループを登場させた」と話した。

観客を刺激し倫理観を問う

メッセージ性に目を奪われがちだが、映画として緊迫感が続く。フラッシュバックを使って過去と現在を交差させ、若者たちの行動の動機を見せていく。16ミリフィルムの手持ち撮影も駆使して臨場感を盛り上げる。「政治的な思考をいわゆるハイスト(強盗もの)の見せ方で仕立て上げた」。映画作りのカギは「編集だった」。

一番難しかったのは「バランス」という。「エンタメだから、若い人たちの行動にユーモアも持たせた。政治的状況についてのディスカッションやキャラクターそれぞれの物語と全体的なスリルのバランスを取り、しかも作品の概念に見合うものでなければいけない」

もう一つ大事なことは、計画が成功し、逮捕されるまでを描いていることだ。こうした反乱、反抗を描く物語は失敗することが大半で、情熱はあっても無知で理想主義的なものとして描かれがちだ。しかし、彼らの行動は現実的で生々しい。その意図はどこにあるのか。

「8人が成功することによって、観客は彼らの行動を正当化できるか自問すると思う。それはある種の挑発にもつながる。計画が失敗したら、ハリウッドの普通の〝あるある映画〟になってしまうが、この作品は彼らに成功を手渡す。それに対して、観客の倫理的意見が問われる」。観客の反応を推察して物語を構築した。ゴールドハーバー監督の狙いは明確だ。「そうした刺激や挑発によって、思考を巡らせてもらうことがゴール」


ムーブメントを起こしたい

そもそも気候変動に関する映画をなぜ撮ったのか。ゴールドハーバー監督は気候科学者の両親の間に育ち、高校時代から映画製作を始め、ハーバード大学で映像と環境研究を学んだ。「映像で最初にかかわったドキュメンタリーが気候ものだった」と言い、今回も地球環境への危機感があった。「すでに世界中で飢餓や干ばつと、それによる過剰な暴力が発生し、これからもっとひどい状況になる」と見ている。

「僕はアーティストとして、一番反応すべきストーリー、語らなくてはいけないのは環境問題と考える。二酸化炭素排出量や化石燃料に関する問題を含めて、持続可能ではなくなる危機に面している。そういうことに目を向けたアートを作らないで、いったい何をするんだと思っている」

言葉は次第に熱を帯びてくる。「映画やアートは文化の基礎であり、我々がどう生きるかを問うものだ。1本の映画で直接何かを変えることは難しいが、ムーブメントのような形なら起こるかもしれない。ストーリーテラー、フィルムメーカーとして、そういう力を持ちうる」


政府の無策が現状をもたらした

今回の作品は若い人たちの計画や行動を追っている。「この物語を作る時に、僕や友人たちの視点から始めたので登場人物は若者が中心になったが、年齢やバックグラウンドは関係ない。70代、80代のアクティビストもいる」と話す。

「気候変動の問題は15年も20年も語られているが、最後は『どうしよう』で終わってしまう。選挙に行こうとか電球を替えようとか、ハイブリッド車に乗り換えようと言っても、それ(だけ)ではダメだということはみんな分かっている」。日常の発想から、文明論的な話になっていった。

「先進国に住む我々は、暑い日が増えたり山火事が頻発したり、ガスの値段が上がったりすることはあっても、それほど不安定な状況にはなっていない。若者も、自分たちがどうしたいかのロードマップを持っていない。特に先進国の若者は、まだ居心地がいい。歴史をひもとくと、人々は問題がものすごく悪化して初めて立ち上がる。政府や体制側が問題に手を付けてこなかったから、現在の状況が生じているのは確かだ」

映画製作の背景に強い意志があるのは明らかだ。「だからこそ、この状況からどうすればいいか。みんなで(今すぐ)考えていかなければならない。小さな映画だが、そのきっかけになればいいと思っている」

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ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。