「毒親<ドクチン>」のキム・スイン監督=勝田友巳撮影

「毒親<ドクチン>」のキム・スイン監督=勝田友巳撮影

2024.4.10

「女性監督の活躍、まだこれから」 「毒親<ドクチン>」でデビュー キム・スイン監督

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勝田友巳

勝田友巳

韓国でも親の過剰な支配や育児放棄は問題になっているという。韓国映画「毒親<ドクチン>」は、ミステリーの中に母と娘のゆがんだ愛情関係を描いた、キム・スイン監督のデビュー作。公的助成を利用したインディペンデント作品だが、エンタメ性と社会問題を取り入れて見応え十分。韓国映画界で頭角を現すキム監督に、聞いた。


 

娘の成功求めるあまり……

「毒親」は日本では聞き慣れた言葉になってしまったが、韓国ではさほど一般化していないとか。とはいえ支配的な親の抑圧や育児放棄は問題になっていて、「極性父母」などと呼ばれているそうだ。「韓国語は表音文字で漢字は使いませんが、インパクトの強さで決めました」とキム監督。
 
優等生の高校生ユリ(カン・アンナ)が遺体で発見される。集団自殺の線で捜査を進める警察に、母親のヘヨン(チャン・ソヒ)は「娘が自殺するはずない」と猛抗議。仲が良い母娘だと、自他共に認めていたのだ。ヘヨンはユリが死の直前に担任教師ギボム(ユン・ジュンウォン)と2人きりで会っていたと責め、芸能界を目指す級友イェナ(チェ・ソユン)のせいで素行が悪くなったと思い込む。しかし次第に、ヘヨンがユリを監視し、支配しようとしていたことが明らかになっていく。

「韓国では『K―長女』という言葉が話題になっています」。「K―POP」同様、韓国ならではの、母と娘の関係性だという。「20、30代の長女が、母親から自分の代わりとなることを過大に求められてプレッシャーを感じているんです」。自身も1992年生まれで、まさにその世代。「母と娘は感情的に微妙な関係になりがち。それに、成功して一番にならなければという社会の圧力は、今でも強い。教育熱心で子供に過剰な期待をかける親も珍しくありません」

良い親になろうとしたのに、なぜ

ヘヨンだけでなくギボムの父も、大企業に就職した長男と比べてギボムを不当におとしめる。映画界に入る前に、ソウルの進学塾で講師をしていた時に見聞きした親や、ドラマや映画の登場人物を参考に造形したという。「特定の人物がモデルではありません。でもこういう親は、実際にいると思います。ソウルの学習塾の前には、送迎する親の高級車がズラリと並んでいたりしました。極端な人物造形にはしたくなかったんです」

「親子関係の物語は、韓国でも新しくはありません。ただ韓国では、子供のためにできる最善のことは良い教育を与えることだと信じている人が多い。教育熱心なあまり、問題が深刻化していると思います。それと、日本と比べてお金持ちになって成功しなければ、1番にならなければという欲求が強い。幸せになる方法はたくさんあるはずなのに、ほかの生き方を認めない。政治も含めて学歴偏重がずっとある」

ただ「ヘヨンを悪者にはしたくなかった」と強調する。「親になる資格、といったものはありません。誰もが良い親になろうとしているのに、そうなれない人がいる。ヘヨンも、ユリを本当に愛していて、努力していた。それが、どこかで誤ってしまった。そのことを考えてほしかった」

ミステリーが大好き

社会的なテーマを扱いながら、物語はユリの死の真相をめぐって二転三転、緊迫感あるミステリー調の展開だ。「このジャンルが大好き」と話す。「韓国には、未解決事件を推理する『そこが知りたい』というテレビの長寿番組があるのですが、子供のころからこれが大好きだった。死体や血のりがたくさん出てくるので、母親から気分が悪くなるからやめなさいと言われながら見続けていました。いつかは自分でも作りたいと思っていたのです」

小説家か映画監督を志望して中央大に進み、学部では文芸、大学院で映画を専攻。塾講師を含むさまざまな仕事を経験しながら脚本を書いてコンテストで受賞。映画界に入った。初めは脚本を手がけ、キム・ドンワン主演の「覗き屋」、ヒットした「オクス駅お化け」などで認められ、監督デビュー。「これまで自分で短編も撮ったし助監督も務めたので、撮影現場が初めてではありません。デビュー作だからという気負いはなく、普段通りでした」と振り返る。

「重い話なので、俳優たちは深刻に演じないといけないと考えていたようですが、それは観客が感じること。物語の人物は平凡な日常を生きているので、自然に演じてほしいとお願いしました」。ヘヨンを演じたチャン・ソヒは多くのドラマに出演したベテランで、映画界の大先輩。「ヘヨンは優しくて娘との関係も良い。愛情があるから小言を言うんです。深刻に演じず、そういうお母さんになってほしいとお願いしました」。動じない現場のたたずまいが、周囲を安心させたという。

女性監督、活躍まだまだ

本作はKOFICの支援を受けた低予算のインディペンデント映画。公開待機中の第2作でも支援を受け、準備中の第3作も支援を申請中という。韓国ではこうして、公的助成を受けた小規模公開の作品で実績を作り、注目されてメジャーデビューという道筋が一般的という。「ことさらに作家性を出そうとは考えていません。商業映画にするには資本や有名俳優の配役が必要だけれど、それが期待できないならストーリーに独自性が求められる。そうなると、作家の個性が重要になるのではないでしょうか」

「ビニールハウス」のイ・ソルヒ、「同じ下着を着るふたりの女」のキム・セインら、女性監督の力作が次々と紹介されている。しかし「韓国で女性監督が活躍しているとは、今も感じません」。個性的なインディペンデント作品で注目されても、メジャー作品となると監督する女性は少ないというのだ。「女性監督が1本撮ることがあっても、次が続かない。映画学校などでは女性が確実に増えていますが」。日本と比べて先進的に見える韓国映画界でも、女性の本格的活躍はこれからのようだ。

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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