「ミャンマー・ダイアリーズ」を監督した映像製作集団ミャンマー・フィルム・コレクティブの1人、マイケル(仮名)監督=提供写真

「ミャンマー・ダイアリーズ」を監督した映像製作集団ミャンマー・フィルム・コレクティブの1人、マイケル(仮名)監督=提供写真

2023.8.10

軍政VS自由を求める表現者「創造的な抵抗続ける」 「ミャンマー・ダイアリーズ」

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勝田友巳

勝田友巳

「ミャンマー・ダイアリーズ」は、2021年2月にミャンマーで起きたクーデター直後の国内の情景と、ミャンマーの人々の不安と恐怖を映した作品だ。同国内の映像作家10人の集団「ミャンマー・フィルム・コレクティブ」が製作し、ベルリン国際映画祭のパノラマ部門でドキュメンタリー賞などを受賞、ミャンマーの実情を世界に伝えた。参加作家の1人が匿名で、オンライン取材に応じた。
 


 

「恐怖と不安」共有した10人

名前は仮名で「マイケル」、画面でもマスクに帽子姿。現在はミャンマー国外に滞在しているが、素性は知られたくないという。「クーデター直後から、状況は悪化する一方だ」と語る。
 
「『ミャンマー・ダイアリーズ』の話が持ち上がったのは、クーデターから1週間ほどたったころ。仲間の映像作家と信頼できる数人に声をかけた。全員がクーデターへの恐怖を共有していたので、特にテーマや方向性を話し合う必要はありませんでした」


「ミャンマー・ダイアリーズ」© The Myanmar Film Collective

フィクションとドラマ 切れ目なく

10人がそれぞれ製作した数分の短編作品に、フェイスブックやツイッターなどSNSから収集したクーデター直後の投稿映像を切れ目なく組み合わせた。デモ参加者の1人が私服の集団に暴行される場面や、国軍の兵士に大声で抗議をする女性の姿、自分が連行される直前の様子など、ドキュメンタリー映像は生々しい。クーデターの後間もなく、デモも禁じられ撮影もできなくなった。多くの映像は隠し撮りだ。
 
一方でフィクション部分では、血痕のついたTシャツとヘルメットを前にした男が神に独白したり、反政府ゲリラに加わる恋人を妊娠を隠して見送ったりと、混乱の中の不安や恐怖を描き出した。「短編の間にドキュメンタリーを挟むという構成は、より大きな集団の物語を反映するため」という。
 
こうした作品を作ること自体が自身の安全を脅かしかねない。「危険なことは分かっていた。しかし消防士の仕事と同じで、怖がるくらいなら最初からやらない。心配はしたが恐れはしませんでした。ただし十分注意しました」。デモ隊を撮影する際は見張り番を立て、危ない気配がしたらカメラを置いて遊んでいるふりをしてやり過ごしたという。


 

検閲は激化 占師も許可制に

オランダ人プロデューサーの手でベルリン国際映画祭に出品され、世界的な注目を集めた。「軍政から直接的な弾圧はないです。そんなことをしたら、かえって有名になってしまうから。軍政支持者からは非難されましたが」
 
ただ、表現への検閲は強化されている。「もともと検閲は厳しかったが、さらにひどくなった。背が低い国軍のミンアウンフライン最高司令官を連想させるからと、『shorty(チビ)』という言葉すら使えない。インターネット上の短編映像も検閲し、占師まで許可がないと営業できなくするそうです」。フェイスブックなどのSNSも禁じられている。


空に向かって開いた傘のスローガン

国軍の抵抗運動への弾圧は厳しくなる一方だ。22年には活動家の処刑が始まり、23年初めから空爆も行われている。それでも抵抗は続く。
 
「大規模なデモはできないが、一瞬だけ集まって抗議するフラッシュデモや、傘にスローガンを書いて差し、上から見ている人たちにメッセージを伝えるといったクリエーティブな方法を考案している」。作品に参加した作家には危険が迫って活動できなくなった人がいる一方で「短編やミュージックビデオで抵抗の意思を示す仲間もいます。インターネット技術を使えば発信は可能です」。
 
自身も新しい企画を進めている。「9月には長編作品を完成させて、抵抗運動の資金集めをするつもりです。レジスタンスを助け、難民を支援したい」。本作の収益も、支援団体に寄付される。

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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