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2023.12.20
「〝よそ者〟への差別と偏見、気づかぬうちに」 上野樹里と林遣都が「隣人X」で考えたこと
不安は人のつながりを断つ――。「隣人X 疑惑の彼女」に主演する上野樹里は、作品に描かれる無意識の差別、無自覚の偏見といったテーマを身近に引きつけて実感する。「コロナ禍の最中に話をいただいた作品でした。当時はマスクで互いの顔が見えないまま卒業していく中高生もいて、人と触れ合ったり表情を見たり、『感じる』ということが希薄になっていた」と振り返る。そして自問した。「恐怖に縛られたままで、隣の人の心と向き合うことはできるのか」
隣人の心と向き合えるか
地球外の生命体である「惑星難民X」を受け入れると発表した日本が、物語の舞台となっている。故郷を追われたXは人間の姿に擬態して日常に紛れ込んでおり、人々は不安を抱く。週刊誌記者、笹憲太郎(林遣都)はネタをつかもうと、X疑惑のある柏木良子(上野)に近づくが、次第に恋心が芽生える。良子にひかれる気持ちと罪悪感に引き裂かれる中で、笹はどういった決断を下すのか。そして、Xはいったい誰なのか――。
原作はパリュスあや子が2020年に発表した同名の小説。フランスに住んで自身が「移民」となったことが着想のきっかけとなり、「移民・難民問題」をエンターテインメントとして仕上げた。映画は原作に沿いながら、熊澤尚人監督が「異なる者たちの恋愛」を軸に再構成した。SF的で非現実な物語に、「よそ者」に対する疑心や不安が簡単に偏見や差別に転じていく様がリアルに描かれる。
誰もがいけないと思っていても
観客は笹の立場で「誰がXか」と考えながら、映画を見ることになる。「偏見を持ってはいけないと皆思っていますが、ちょっとした発言や行動が気付かないところで誰かを傷つけていることがある」と林は言う。
良子に相反する感情を抱くことになった笹は、実は職場では解雇寸前だ。特ダネの重圧をかけられる一方、介護施設の祖母は料金未払いで退去を宣告されている。林は、そんな笹の苦悩や弱さを表現する。
熊澤監督とは「ダイブ‼」(2008年)でも組んだ。「役を引き寄せられるような役者になってほしい」と言われたことを鮮明に覚えているという。「当時はあまりよく分からなかった」と振り返るが、言葉の意味は30代に入るころから見えてきた。俳優という仕事を「人生経験を重ね、自分の幅を広げていかないとやっていけない」と感じ、「日々の生活を大事にするようになった」と話す。
Xが誰か、分かった先に
世界中で「よそ者」を忌避する動きが顕在化する中で企画され、日々の何気ないやり取りの中にこそ、分断の芽は眠っているのかもしれないと思わせる映画。Xが誰だか分かる瞬間に、息をのむのは間違いない。ただ、ミステリーの解決やロマンスのカタルシスだけが全てではない。
上野は言う。「生きていく上で社会的地位やお金、肩書みたいなものも必要だと思うんですけれど、そんな中でも隣にいる人と手を取り合って心を見つめて生きていてほしい。Xが分かって終わりではなく、そこからのストーリーがある」