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2024.10.08
「悪魔と夜ふかし」 宗教も時代も超えて「超常現象はみんな大好き」 主演のデビッド・ダストマルチャン
1970年代の米の人気トークショー「ナイト・オウルズ」の生放送中に、悪魔が降臨して惨劇が起きた。一部始終を記録したビデオテープが見つかった――という体のファウンドフッテージスタイルで描いたオーストラリア映画「悪魔と夜ふかし」。超常現象の恐怖体験を臨場感たっぷりに演出した。番組の司会者ジャック・デルロイを演じたデビッド・ダストマルチャンに超常現象やテレビとの相性などを聞いた。
ハロウィーンの夜、悪魔が生出演
77年のハロウィーンの夜。ジャックは軽妙なトークと人懐っこさで全米の視聴者から愛されてきたが、最愛の妻マデリンががんで死去し、番組や自身の評価が低迷、打ち切りがささやかれていた。ジャックは起死回生を狙ってブーム再燃中のオカルトライブショーを実施。霊能力者のクリストゥは霊聴で観客と他界した身内との交流を図るが、超常現象懐疑論者はイカサマだと声高に訴える。そんな中、ベストセラー「悪魔との対話」の著者で超心理学者のロスミッチェル博士と本のモデルで悪魔がつく13歳の少女がスタジオに登場。ジャックはテレビ史上初となる悪魔の〝生出演〟を持ちかける。
インタビューが始まると、映画とは異なり親近感あふれる雰囲気のダストマルチャン。日本語であいさつし「高校の時に日本語を勉強した。日本は大好きなんだ」と頰をゆるめた。映画やテレビ、舞台と経験豊富な俳優だが、司会者役は今までなかった。「最初は少し不安だった。ジャックはチャーミングでユーモアがあって観客を楽しませることができる人」。ジャックはスタジオの様子も把握しつつ、流れるような司会ぶりでショーを進めていく。
監督のコリン&キャメロン・ケアンズから、当時の映画やテレビを可能な限り見てほしいと求められ、「ネットワーク」(76年)や「エクソシスト」(73年)、「ローズマリーの赤ちゃん」(68年)といった映画や、テレビ番組を見てインスピレーションを得たという。「有名なナイトショーもたくさん見た。ホストの話し方やたたずまい、動き方は、まるでダンサーの振り付けと同じ感覚。数多く見ているうちにジャックの声や動き方が浮かんできた」。監督への賛辞も口にした。「撮影現場では、監督がどの部署にも輝ける場所を作ってくれた。衣装や美術、小道具、ヘアメーク、音楽など、すべてが70年代のテレビ番組を再現するのに貢献したんだ」と話した。
「悪魔と夜ふかし」©2023 FUTURE PICTURES & SPOOKY PICTURES ALL RIGHTS RESERVED
「感情を見せない、弱みを隠す」70年代の男性像
70年代の人物のキャラクターの決め手は何だったのか。「当時の男性は、自分の感情を見せてはいけない、という空気の中で生きていた。自身の強さを投影すべきで、それがアイデンティティーにとって重要だった。今もそうした部分はあるが、随分と減った。僕だってオープンに家族や友人、セラピストにいろんな話ができるからね」
ジャックのキャラクターに内面からアプローチしていった。「彼の中にある喪失感や不安、キャリアへのストレスといった気持ちは共感できる部分もあるが、あの時代だからこそ、ジャックはほかの人には絶対そうした部分を見せたり言ったりしてはいけないと考えていた。70年代っぽい男と理解して演じた」と明かした。
テレビと相性がいいのは
超常現象や霊、つきものに人はなぜひかれるのか。本作を体験してどう感じたのか。「子供のころに、寝室に影が見えて何だろうと思った経験はあると思う。外に何かいるんじゃないかとか窓の外を何かが横切ったのではとか。ある程度科学的な説明はされているが、全く分からないこともたくさんある。世界中のみんなが経験していることだ」。声が神妙になっていく。ジャックが少し入ってきたのだろうか。「日常生活でも、恐怖を感じることはある。不審な物音がしたり何かが動き出したり、あの世はどうなっているのかと考えたり。出自、環境、信仰に関わらず、私たちは神秘的なものに好奇心を覚えるし、魅了されてしまう」と実体験を踏まえて語った。
ダストマルチャンは「超常現象を扱ったトークショーには、2種類ある」と話した。「からかいたい、面白おかしくしたいと、ゴーストハンターとかUFOに詳しい人を呼ぶケースが一つ」。もう一つはジャックのモデルとなった、オーストラリアで番組を持っていた米国人司会者ドン・レーンのように「本人が超常現象を信じたいタイプ」。トーク番組とこの手の題材は相性がいいのだろう。司会者の語り口や進行で、どんどん深みに入っていけるから。「だから、ついついテレビのスイッチをつけてしまうんでしょうね」