ホワイト・ホット:アバクロンビー&フィッチの盛衰 Netflix

ホワイト・ホット:アバクロンビー&フィッチの盛衰 Netflix

2022.5.15

オンラインの森:「ホワイト・ホット:アバクロンビー&フィッチの盛衰」 顧客選別したブランドの転落

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品をお選びします。案内人は、須永貴子、村山章の2人です。

ひとしねま

須永貴子

クラブのような店舗に愕然


独自のドキュメンタリー映画を精力的に製作しているNetflix。4月19日に配信開始された「ホワイト・ホット:アバクロンビー&フィッチの盛衰」は、日本では「アバクロ」の通称で知られるファッションブランド、アバクロンビー&フィッチに関するドキュメンタリーだ。

その存在はなんとなく知っていたものの、アバクロの商品に一度も触れる機会がなかった筆者は、2009年に東京・銀座6丁目に旗艦店がオープンしたことを報じるテレビのニュースを見て「なんじゃこりゃ……」と愕然(がくぜん)とした。見栄えのいい外国人男性がエントランスで得意顔でポーズを決め、店内には音楽が大音量で流れている。まるでクラブのようなノリに「自分はターゲットではない」と判断し、一度も足を運ぶことはなかった。
 
あのときに感じた「自分はターゲットではない」という感覚はそれ以上でもそれ以下でもないが、ブランド側が自分たちのターゲットではない人をさげすむような思想はあってはならない。ところがこの作品では、アバクロ社が長年にわたりターゲットではない人を意識的に〝排除〟することで成功し、そして衰退していった背景に、元CEOのマイク・ジェフリーズ自身の排他主義と性的指向があると考察されている。
 

エリート、セックス、排他的、お手ごろ価格

ジェフリーズはこのドキュメンタリーに一切協力せずコメントも拒否している上、証拠が十分ではないため、残念ながら監督の考察は推察の域を出ていない。しかし、ジェフリーズがトップダウンで経営していたアバクロで何が起きていたのかを語る、当時のスタッフやモデルら関係者の証言は非常に興味深い。
 
100年の伝統ある紳士服店だったアバクロンビーを買収したマイク・ジェフリーズは、「上流階級に愛された伝統+エリート主義+セックス+エクスクルーシブ(排他的)」というアバクロのブランドイメージを打ち立てた。「名門私学生風のラルフローレンと、セックスイメージのカルバンクラインを融合」し、18~22歳のターゲット層が購入しやすいように価格設定はお手ごろに。
 
若者が集まるモールに出店すると、外から内部が見えず、爆音のBGMが流れ、上半身裸の男性のポスターが張られ、美しい白人だらけの店員が踊るように接客し、ムスクのコロンが香る店内に、若者たちが吸い込まれていったという。売り上げは右肩上がりで、1996年にはニューヨーク証券取引所に上場。ある人物はアバクロを着ると「自分が特別に感じられた」と証言する。自尊心の向上は、ファッションが持つ正しい効用である。
 

人種差別、セクハラでイメージダウン

しかし、インターネットやSNSの浸透とともに、アバクロに対する風当たりは強くなっていく。ロゴTシャツの人種差別的なデザインや、店舗スタッフに対するルックスや人種による雇用差別への批判の声が高まり、アバクロの広告を撮影していた写真家のブルース・ウェーバーに対するモデルたちからのセクハラの告発も続く。
 
このブランドイメージの変化と90年代後半からのカルチャーとの関係性の考察が、本作の見どころだろう。90年代後半のアバクロは、芸能人や大学の人気者がインフルエンサーとなり、「アバクロを着れば、イケている人種の仲間入りができる」という価値を高めていった。
 
ブルース・ウェーバーによる広告写真がゲイの人たちに与えたポジティブな影響を証言する声もこの作品は伝えている。99年、3人組ラップグループのLFOが「サマーガールズ」という曲で、「アバクロンビー&フィッチを着ている女の子が好き」と歌ったときがアバクロ人気のピークだったという。それが3年後の02年には、映画「スパイダーマン」でピーター・パーカーをいじめるフラッシュが全身アバクロを着用しており、嫌なやつが着る服というイメージが共有されはじめていたと、ある関係者は指摘する。


 

よそ事と笑えない経営者の人権意識

レイシズムとルッキズムに根付いたブランド戦略が受け入れられるはずがなく、14年にマイク・ジェフリーズはCEOを辞任した。批判の声に対応し、店舗スタッフの有色人種の割合は50%を超えていたが、部長や役員は全員白人という「ゲット・アウト」状態だったという。その後のアバクロは女性CEOにより、ダイバーシティーを前面に押し出した戦略に切り替えて今に至る。
 
そういえば我が国では老舗牛丼チェーンの吉野家が「生娘をシャブ漬け戦略」と「ハーフの大学生の会社説明会参加拒否」という炎上事件で、女性差別と人種差別を露呈した。いくら体面を取り繕っても、経営者の哲学に問題がある場合、SNS時代には必ずボロが出る。ある証言者の「差別は彼らの根っからのアイデンティティー」という発言をよそ事として全く笑えない。
 
Netflixにて独占配信中。

ホワイト・ホット:アバクロンビー&フィッチの盛衰

1990年代後半から2000年代前半にかけて人気を得たファッションブランド、アバクロンビー&フィッチの興隆と衰亡を追うドキュメンタリー。「イケてる若者の仲間入りができる」というイメージで成長したが、経営者の排他的な市場戦略や差別的な雇用方針が非難の的となった。元従業員や重役、モデルらへのインタビューでその内情をたどった。

製作年 : 2021

出演 :

    ライター
    ひとしねま

    須永貴子

    すなが・たかこ ライター。映画やドラマ、TVバラエティーをメインの領域に、インタビューや作品レビューを執筆。仕事以外で好きなものは、食、酒、旅、犬。

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