やすらぎの森 © 2019 - les films insiders inc. - une filiale des films OUTSIDERS inc.

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2021.5.20

やすらぎの森

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

カナダ・ケベックの森林地帯で撮られた人間ドラマである。俗世間のしがらみを断ち、湖畔の小屋で暮らすチャーリー(ジルベール・スィコット)とトム(レミー・ジラール)の元に、ジェルトルード(アンドレ・ラシャペル)という老女が転がり込んでくる。60年も精神科療養所に入れられていたジェルトルードは、チャーリーらに支えられて森での生活になじみ、次第に生気を取り戻していく。

現代の世捨て人たる登場人物たちは、いずれも80歳超の高齢者。ケベックの作家ジョスリーヌ・ソシエの小説を映画化したルイーズ・アルシャンボー監督は、詩情豊かな自然をカメラに収め、人生の晩年という主題を探求した。人はいくつになっても誰かを愛し、新たな一歩を踏み出せる。そんな前向きな視点が重みを感じさせるのは、老いの痛みや逃れられない死にも目を向けているからだろう。男たちが素っ裸で水浴びする冒頭や性愛シーンなどの生々しい描写にも驚いた。2時間6分。東京・シネスイッチ銀座、大阪・シネ・リーブル梅田(6月18日から)ほか。(諭)

ここに注目

カメラはほとんど森や湖から出ない。フィトンチッドを2時間あまり浴びた気になり、さわやかというか、すがすがしい気分。で、映画は安らぎというよりシビアな現実が随所に。世間にあらがい、森に溶け込んで生きる老人たちの姿を慈しむようなトム・ウェイツの歌が渋い。(鈴)