白い牛のバラッド

白い牛のバラッド

2022.2.17

白い牛のバラッド

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

イランのテヘランで暮らすミナは、1年前に夫を殺人罪で死刑に処せられた女性。牛乳工場で働き、口のきけない幼い娘を育てる彼女が、裁判所で衝撃的な事実を告げられる。夫は殺人を犯しておらず、真犯人は別人だったというのだ。やがて担当判事の謝罪を求めて裁判所に通うミナの前に、夫の友人と称するレザという中年男が現れる。

冤罪(えんざい)を題材にしたサスペンス映画である。夫を亡くした悲しみに暮れるミナは、公式に過ちを認めようとしない裁判所の対応に納得できず、夫と死別したゆえに社会の古い慣習や価値観にも苦しめられる。共同監督を務めたベタシュ・サナイハ、マリヤム・モガッダム(主演を兼任)は、ミナと謎めいた男レザのロマンスを静謐(せいひつ)なタッチで語りながら、見る者に終始不穏な予兆を抱かせる。比喩的な夢のイメージを織り交ぜ、扉や鏡を巧みに活用した演出が秀逸。〝報復〟というテーマが意外な形で映像化される終盤の展開にも驚かされた。1時間45分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(諭)

ここに注目

死刑が多いというイラン、本当にこんな理不尽さなのか。「神のおぼしめし」では納得できるはずもなかろう。端正な映像と語り口ながら、社会への憤りを共有させる、力強い一作。とはいえ、これほど直接的な政治批判映画が作れるのなら、まだ自由があるということか。(勝)