「わたし達はおとな」

「わたし達はおとな」©2022「わたし達はおとな」製作委員会

2022.6.17

特選掘り出し!:「わたし達はおとな」 希薄な時代の生きる実感

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

ラストから書く。優実(木竜麻生)が暗いキッチンで簡単な料理を作って食べ始める。トースターの明かりや冷蔵庫を開ける音がまぶしい。生きている実感が伝わるエンディングにうなった。

インタビュー:藤原季節、木竜麻生 かつてない恋愛映画「わたし達はおとな」

優実と直哉(藤原季節)は恋人同士で半ば一緒に暮らしている。ある日、優実は妊娠していることに気づくが直哉が父親だと確信できない。打ち明けられた直哉は、現実を受け入れようと平静を装うが2人の関係性は崩れていく。

演劇界の俊英、加藤拓也監督のオリジナル脚本、長編映画デビュー作だ。直哉への嫌悪感、うわべばかりの優実と友人の会話は子供っぽさを露呈させる。大事なことを避けて責任の所在や面倒なことをあいまいにして日常を過ごす人たち。ただ、優実と直哉の会話を中心に、そこにリアリティーを感じてしまうのが本作の核心だ。ナマの感覚はあるが、生の感度は著しく低い。それでも生きている。

加藤監督は、そこに恋愛と妊娠という感情の激しい揺れや体のどうしようもない変化を投げ入れる。今の若者たちのありよう、時代の空気感を赤裸々に活写する。木竜と藤原は大人未満を生々しく体現してそれに応えた。1時間49分。東京・新宿武蔵野館、大阪・テアトル梅田ほか。(鈴)

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