©️「東京組曲2020」フィルム パートナーズ

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2023.5.29

「東京組曲2020」遺伝子解析! JIFFで見たクリエーターたちのバックグラウンド

国際交流基金が選んだ世界の映画7人の1人である洪氏。海外で日本映画の普及に精力的に活動している同氏に、「芸術性と商業性が調和した世界中の新しい日本映画」のために、日本の映画界が取り組むべき行動を提案してもらいます。

洪相鉉

洪相鉉

CGV全州高士(チョンジュㆍコサ。韓国にある映画館)8館、2023年5月2日21時36分より「東京組曲2020」の上映後のゲストトーク。
 
同作は全州国際映画祭(以下、「JIFF」)東アジア映画特別展に、日本を代表する作品の1本として出品された。そもそも作品を紹介したのは筆者だが、東アジア映画特別展自体にも深い意味がある。2012年5月の日中韓文化相会議で合意されて以来、2014年から3カ国で文化的伝統を代表する都市を選定し、毎年3都市を行き来しながら文化交流イベントを開催する国際交流プロジェクトの一環だったからだ。

今年の文化都市は日本の静岡県と韓国の全州市、そして中国の成都ㆍ梅州市。日本の奈良市と韓国の済州島、中国の寧波市が参加した2016年のなら国際映画祭に参加し、「チョコレートケーキと法隆寺」をピックアップして済州映画祭での上映にかかわってから、丸7年ぶりだろうか。いや、韓国の大統領府の事業に合流して働いた部署が2005年アジア文化中心都市造成委員会だったので、似たような仕事に携わってきた期間は人生の3分の1に達する。そして何の運命だろうか。当時はナムㆍジュンㆍパイク氏の遺作映像プロジェクトのプロデューサーでもあったが、いつからか読者の皆がご存じのとおり、「日本映画伝道師」として生きている。
 
しかし、このような筆者の個人史とは比べものにならないくらいドラマチックな事情が「東京組曲2020」にはあった。
 

求められ愛され続ける、監督・三島有紀子の底力


「東京組曲2020」のゲストトークで発言する三島有紀子監督

まずは監督の三島有紀子である。彼女は韓国の映画関係者などから「JIFFに愛される監督」と呼ばれている。それはそうだろう。2015年第16回の「繕い裁つ人」から2017年第18回の「幼な子われらに生まれ」、2020年第21回の「Red」に続き、今年で4回目の正式出品である。ワールドプレミアとしては2回目で、以前のワールドプレミアの「幼な子われらに生まれ」は、同年第41回モントリオール世界映画祭で審査員特別賞を受賞した。招待した映画作家に格別の愛情を持って見守ってくれることで有名なJIFF側は、当時の三島の受賞を身内のことのように喜んだという。
 
「東京組曲2020」の一つ前の出品作だった「Red」についてもビハインドストーリーがある。2018年第19回の時、「Red」と同様に「シネマフェスト」セクションに「ザㆍライダー」を出品したアメリカのクロエㆍジャオは、次期作である「ノマドランド」で第93回アカデミー賞を3部門(作品賞、主演女優賞、監督賞)も受賞する快挙を成し遂げた。三島も「Red」の出品後、欧州などの国際映画祭に同作を出品する計画だったが、コロナ禍の真っただ中だったため、欧州はおろかJIFFにも来られない悲運に見舞われた。それでも映画が「エッセンシャルワーク」に分類された韓国で「Red」が2021年に公開された。その相乗効果で2022年のフランス公開にまでつながったのだから、監督による小説「しあわせのパン」が出版され(2012年、同作を三島監督自身がが映画化)、ベルナールㆍウェルベルの「蟻」と同じ販売高を記録するほど韓国で評価されている監督としての底力は見せたと思う。

演技力と存在感に夢中! 大高洋子から、目が離せない 


左から大高洋子、ひとりはさんで、松本晃実、田川恵美子

次に「東京組曲2020」の製作にクリエーターとして参加した大高洋子である。高校の国語科教員免許の所有者であり、大手企業のOLだった経歴を持つ彼女は44歳で女優デビューをした。

2019年の東京国際映画祭(以下、「TIFF」)に富川(プチョン)国際ファンタスティック映画祭(以下、「BIFAN」)のアドバイザーとして参加した筆者は、TIFFの出品作であり、(彼女には)長編映画デビュー作の「ミセスㆍノイズィ」での彼女の演技に魅せられて、上映会が終わるやいなやBIFANに強く推薦する意思を監督に伝えた。そして翌年の2020年、第24回BIFANに「ミセスㆍノイズィ」が出品されたが、海外ゲストの招請が不可能だったため、大高の最初の国際映画祭の参加はかなわなかった。もちろん彼女の出演だけがJIFF推薦の決定的な理由ではなかったが、「東京組曲2020」の劇中で「ミセスㆍノイズィ」の公開延期による精神的苦痛で涙の毎日を送る彼女の姿を見て、筆者が何度も目頭を熱くしたことをここで告白しておきたい。
 
その他、現場で登場してくれた荒野哲朗、加茂美穂子、田川恵美子、松本晃実、実際には会えなかった池田良、長田真英、小西貴大、小松広季、佐々木史帆、清野りな、長谷川葉月、畠山智行、舟木幸、辺見和行、宮崎優里、八代真央、山口改、吉岡そんれい、「声の出演」の松本まりかに対し、誰にも苦しい一人を強いられる日常をもうひとつの「創作物」として昇華させてくれたことに心から敬意を表したい。
 

言葉にすれば陳腐に思える、クリエーター陣への敬意

 
左から筆者、加茂美穂子、荒野哲朗、三島有紀子監督

ゲストトークは自費参加の4人のクリエーターを2組に分けて1ㆍ2部からなるが(本来、舞台は安全上の理由で5人しか登壇できなかったが、「我々はいつも線を越える」というスローガンらしく知恵を発揮してゲストトークの時間を作ってくれたJIFF側に感謝したい)、筆者は「ただの評論家に過ぎない私は最大限発言を自粛するので、できるだけクリエーターたちに時間を割いてほしい」とJIFF側に要請した。死線を越える彼らの芸術魂につまらない修辞を加えることさえ恥ずかしいと思ったからである。登壇するやいなや次のようなアナウンスを始めた。
 
「皆様、私は今、評論家としての感想より、隣に立っているある女優を紹介することから話を始めようと思います。44歳でデビューした彼女は、長編映画デビュー作を撮るのに10 年という時間を費やしました。ひたすら映画館の舞台、まさにこの場で皆様と向き合うために。しかし、必死の熱演を見せていた彼女のデビュー作は、韓国に来ることができませんでした。 そして、再び丸3年という時間がたち、彼女はここに立っています。 彼女が疫病の脅威に耐えることができたのは、ひたすら皆様にお会いしたいという一念があったからです」
 
この瞬間、筆者と目が合ったある女性は頭を下げながらハンカチで目を覆っていた。 彼女と私だけでなく、劇場にいた皆は同じ方向を見ていたと思う。未来の希望さえ放棄すれば何も残らない過酷な歳月にやっと別れを告げるためだ。そう、映画も、国際映画祭もすべて、人と人との出会いのためのものだから意味があるのだろう。この簡明な真理を改めて思い出した瞬間だった。
 
ゲストトークの後、メンバーだけで簡単に行ったアフターパーティーで、筆者の乾杯の音頭は「日本映画の花を咲かせましょう」だった。しかし、今思えばそれは間違っていたのかもしれない。この3年間続いたような過酷な冬でも、花はいつも咲いていたのだから。

いよいよ春が来た。再生の季節、今こそ誇りを持って彼らの生きる姿を伝えることにこれからも尽力する時。これからも休まず走っていきたいものである。

JIFF写真提供/©JIFF

ライター
洪相鉉

洪相鉉

ほん・さんひょん 韓国映画専門ウェブメディア「CoAR」運営委員。全州国際映画祭ㆍ富川国際ファンタスティック映画祭アドバイザー、高崎映画祭シニアプロデューサー。TBS主催DigCon6 Asia審査員。政治学と映像芸術学の修士学位を持ち、東京大留学。パリ経済学校と共同プロジェクトを行った清水研究室所属。「CoAR」で連載中の日本映画人インタビューは韓国トップクラスの人気を誇る。

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