モガディシュ 脱出までの14日間(c)2021 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS & FILMMAKERS R&K All Rights Reserved.

モガディシュ 脱出までの14日間(c)2021 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS & FILMMAKERS R&K All Rights Reserved.

2022.5.01

先取り! 深掘り! 推しの韓流:「モガディシュ 脱出までの14日間」 〝敵〟同士が手を組む奇跡 エンタメ大作に描く

映画でも配信でも、魅力的な作品を次々と送り出す韓国。これから公開、あるいは配信中の映画、シリーズの見どころ、注目の俳優を紹介。強力作品を生み出す製作現場の裏話も、現地からお伝えします。熱心なファンはもちろん、これから見るという方に、ひとシネマが最新情報をお届けします。

佐藤結

佐藤結

「シュリ」以降多様化する南北もの

1945年、日本の敗戦と同時に植民地支配から解放されたものの、独立後、すぐにアメリカとソビエト連邦によって分割占領されてしまった朝鮮半島。その後、48年に李承晩を大統領とする大韓民国(韓国)と金日成を首相とする朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が成立し、現在に至っている。
 


建国後、長く〝反共〟を国是としてきた韓国では、映画の中でも北朝鮮の人々を〝敵〟や〝スパイ〟としてのみ描く時代が続いた。そんな状況に大きな変化が起きたのが、金大中(キム・デジュン)大統領が就任した98年以降のこと。99年2月に封切られ、記録的な大ヒットとなった「シュリ」では、チェ・ミンシク演じる北朝鮮の軍人が人間味のある姿で描写され、観客に驚きを与えた。
 
さらに、2000年9月には、軍事境界線を挟んで向かい合う南北の兵士の友情をミステリー仕立てで見せた「JSA」が公開され、韓国映画における北朝鮮の人物描写にさらなる可能性が開かれた。その後は、コメディー、ヒューマン、アクションと、さまざまなジャンルの〝南北もの〟が作られている。
 



骨太エンタメの名手、リュ・スンワン監督

1988年のソウル・オリンピック開催によって、国際社会との関係を深めた韓国が、北朝鮮と競い合いながら国連加盟を目指していた時代に起きた実際の事件を映画化した「モガディシュ 脱出までの14日間」。故国から遠く離れたアフリカのソマリアで起きた内戦によって孤立した南北の大使館員たちが、お互いの命を守るために団結し、突破口を探していく。
 
監督を務めているのは、00年に「ダイ・バッド 死ぬか、もしくは悪(ワル)になるか」でデビューしたリュ・スンワン。リズミカルで見応えのあるアクション演出に定評があり、13年には、各国の諜報(ちょうほう)員やテロリストがうごめくベルリンを舞台に、窮地に追い込まれた南北諜報員の絆を描くスパイ・アクション「ベルリンファイル」も発表している。そのほか、「生き残るための3つの取引」(10年)や「ベテラン」(15年)など、韓国社会の巨悪に切り込む良質なエンターテインメント作品でも知られている。
 
リュ・スンワンにとって2本目の〝南北もの〟となる「モガディシュ」は、いくつかの点で先行作品を想起させる。「南北が共同でひとつの目標に挑む」という点で重なるのは、今作の元となった事件からわずか3カ月後に日本で行われた世界卓球選手権に出場した統一コリアチームの活躍を描いた「ハナ 奇跡の46日間」(12年)。あるいは、互いに疑心暗鬼だった男たちが、暗黙のうちに友情を育んでいくという設定の作品としては、同じく90年代が背景となる「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」(18年)があった。
 


モロッコロケの迫力、俳優陣の奮闘

そうした中で、「モガディシュ」の大きな特徴は、モロッコでオールロケーション撮影されたという利点を存分に生かした迫力ある映像だ。街頭でのデモや銃撃戦、そして、映画の後半に登場する、リュ・スンワン監督らしいカーチェイスと、見どころが続く。コロナ禍に映画界全体が苦しんでいた昨年、今作が韓国映画として最も多くの観客を集めたのも、大きなスクリーンで見てこそ十分に楽しめる作品だったからだろう。
 
そして、もちろん、すばらしい俳優たちの存在。民主化運動をドラマチックに見せた「1987、ある闘いの真実」(17年)のキム・ユンソクが清濁併せ飲む度量を持つ大使ハン・シンソン、「ザ・キング」(17年)のチョ・インソンが情報機関から派遣された気の短い参事官カン・テジンに扮(ふん)し、状況に応じて刻々と変化する感情をダイナミックに表現し、ベテラン俳優ホ・ジュノが、したたかに見えて人間的な北朝鮮大使を好演している。
 
朝鮮戦争がいまだ休戦状態にある国からやってきた南北の人々が、内戦中の外国に居合わせたがために体験した、奇跡のような瞬間。その展開に一喜一憂しながらも、彼ら彼女らの葛藤の原因がいまだ解消されていない現実世界に思いをはせずにはいられない。
 
7月1日、東京・新宿ピカデリーほか全国で公開。

ライター
佐藤結

佐藤結

さとう・ゆう 映画ライター。1990年代に交換留学生として韓国・延世大学へ留学。韓国映画やドキュメンタリー映画、韓国ドラマを中心に執筆。「キネマ旬報」「韓流ぴあ」「月刊TVnavi」などの雑誌や劇場用パンフレットに寄稿している。共著に「『テレビは見ない』というけれど エンタメコンテンツをフェミニムズ・ジェンダーから読む」(青弓社刊)がある。スカパー!の映画サイト「映画の空」では、毎月、おすすめの韓国映画についてのコラムを連載中。

新着記事