火の馬:パンドラ提供

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2022.3.09

「火の馬」 1964年 セルゲイ・パラジャーノフ監督

ロシアとの激しい戦闘が続くウクライナ。ニュースでは毎日、町が破壊されていく様子が映されています。映画は無力かもしれませんが、映画を通してウクライナを知り、人々に思いをはせることならできるはず。「ひとシネマ」流、映画で知るウクライナ。

勝田友巳

勝田友巳

ウクライナ版ロミオとジュリエット

ウクライナの山間で撮影された、山岳民族が登場人物のロミオとジュリエットの物語。ではあるのだが、極めて前衛的、芸術的。今見ても、不思議な映画だ。発表当時、各国の国際映画祭で高く評価されながら、ソ連国内では社会主義リアリズムに反しているとして批判された。セルゲイ・パラジャーノフ監督は、苦難の道を歩むことになる。
 
山あいの村で、パリイチューク家とフテニューク家は長年対立していた。山で事故死したパリイチューク家の息子の葬儀の最中に起きたいさかいが両家の間の決闘となり、パリイチュークの家長が殺される。この日、パリイチュークのイワンとフテニュークのマリーチカが出会い、やがて恋に落ちる。反目し合う大人たちの反対をよそに、2人は将来を誓い合う。
 


強烈な映像の芸術性

映画は2人の恋の行方を点描する。山の中で遊ぶ幼い2人は、成長して愛を確かめ合い、貧しいイワンが出稼ぎに行って離ればなれになってしまう。その間に、マリーチカが崖から落ちて死んでしまった。悲しみに沈んだイワンはパラグナと結婚して立ち直るものの、マリーチカが忘れられない。一方パラグナも、別の男にひかれていく。
 
劇的なメロドラマよりも、強く印象づけられるのは映像だ。時代設定は20世紀のはずだが、登場人物の生活はあたかも前近代。民族衣装を身につけ、葬儀や結婚式で儀式を執り行う。コントラストを強めた色彩の絵画的な構図に加え、幻想的な場面や一人称の鮮烈なショットが挿入される。
 
映画の冒頭、イワンを助けようとした兄が倒木の下敷きになって死ぬ。カメラは倒れる木の一人称となって、兄に迫ってゆく。後半には雷に打たれる場面があって、ここでは静止画像が赤や黄色の影となって点滅する。デジタル技術のない時代に、光学処理の凝った特撮である。民族的、宗教的なイメージに満ちた、映像叙事詩のような趣だ。
 

国際的な評価と国内での苦境

パラジャーノフ監督はソ連・ジョージアで生まれ、モスクワの映画大学を卒業、キエフ撮影所に入所する。その斬新な映像表現はパラジャーノフに国際的な注目を集めたが、ソ連当局には理解されず、再編集を求められる。
 
拒否したパラジャーノフは以降、企画が通らず、細々と映画を撮り続けるが、1974年に投獄された。タルコフスキーやロッセリーニ、トリュフォーらソ連と欧州の著名監督が釈放を求めて運動し、釈放されるとジョージアに移って映画作りを模索した。85年、ソ連のペレストロイカ政策によりようやく自由な映画製作が可能になり、88年の「アシク・ケリブ」は国際的に称賛された。90年没。
 
2014年、生誕90年記念特集として「火の馬」「ザクロの色」「アシク・ケリブ」などが上映され、改めて注目された。パラジャーノフ監督は今も、唯一無二の映像作家として、異彩を放っている。

「火の馬」は紀伊國屋書店からDVD、ブルーレイが発売中。

火の馬 

パリイチューク家のイワンと、フテニューク家のマリーチカは幼くして出会い、将来を誓い合う。しかし両家は長年対立していて、2人の交際は周囲の激しい反対に遭う。マリーチカが事故で死に、イワンは別の女性と結婚するが、マリーチカの面影が忘れられない。強い民族色と鮮烈な映像で、パラジャーノフ監督に国際的評価を集めた。

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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