「七人樂隊_道に迷う」 ©2021 Media Asia Film Production Limited All Rights Reserved

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2022.10.07

「七人樂隊」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

製作も兼ねるジョニー・トー監督の働きかけで、香港を代表する名匠が集ったオムニバス映画。1950年から未来までを舞台に、15分ほどの七つの物語が紡がれている。

サモ・ハンらしさ全開でカンフーの修業を描く「稽古(けいこ)」から始まり、アン・ホイが校長と若き教師、教え子の交流を温かく見つめる「校長先生」、ジョニー・トーが投資でもうけようとする市民を通して香港の経済を描く「ぼろ儲(もう)け」など、監督の個性が反映された作品がそろい、最後まで飽きさせない。変容していく香港の風景と、どこか時代に取り残されたような中年男の原風景を重ねて深い余韻を残す作品が「道に迷う」。リンゴ・ラムの遺作となった。

すべての作品が特別な郷愁を呼び覚ますのは、35㍉フィルムで撮影されたから、という理由だけではないだろう。香港を取り巻く状況は変化したが、スクリーンに見る者それぞれにとっての〝あの頃〟の香港映画の魅力が、確かに刻まれている。1時間51分。東京・新宿武蔵野館、大阪・シネマート心斎橋(14日から)ほか。(細)

ここに注目

オムニバスものはエピソードごとの出来不出来が目につくのが常だが、作り手の個性が発揮された本作はなかなかの粒ぞろい。共通するキーワードは〝郷愁〟だろう。ただ一つ、未来編を担当したツイ・ハークによる不条理コメディーの最終話があぜんとするほどぶっ飛んでいた。(諭)