「そして僕は途方に暮れる」 ©2022映画「そして僕は途方に暮れる」製作委員会

「そして僕は途方に暮れる」 ©2022映画「そして僕は途方に暮れる」製作委員会

2023.1.13

「そして僕は途方に暮れる」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

同居中の彼女(前田敦子)に甘えた毎日を過ごすフリーターの裕一(藤ケ谷太輔)は、浮気を疑われて言い争いになり、家を飛び出す。先輩(毎熊克哉)、友人(中尾明慶)や姉(香里奈)の元をたずね歩き、母(原田美枝子)がひとりで暮らす北海道・苫小牧へ。かつて家族から逃げた父(豊川悦司)とも再会する。

三浦大輔が作・演出を務めた同名の舞台を藤ケ谷との再タッグで映画化。残した朝食も食べ終わった弁当も片付けない、絵に描いたようなダメ人間の裕一を見ていると、イライラが募る。しかし都合の悪い事態に直面すると突如として焦り、逃げ出す姿はどこか可愛らしさも感じさせ、人間という不可思議な生き物をめぐる逃亡劇になっている。

「なんか」を連発する裕一は自分の思いをうまく言語化できない人なのだろう。物語が終わっても、裕一が劇的な成長をするとは思えないが、終盤に向けて少しずつ変わっていく藤ケ谷の表情のグラデーションにひきつけられた。2時間4分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(細)

ここに注目

日々のちょっとした面倒を、迫りくる大きな問題を、見て見ぬふりして先送りしてそーっと逃げる。そんな男の姿、特に目を、ムカムカするほど思い出させる藤ケ谷の演技力に驚いた。そしてそれを上回る、すがすがしささえ感じるどうしようもない父親を演じた豊川はさすが。(久)