「わたしは最悪。」のQ&A。ヨアキム・トリアー監督も参加予定だったが体調不良により欠席。残念

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2023.11.22

〝紳士の国〟の映画館!?  雨漏りにもクレームなく 上映中でもトイレOK

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

ひとしねま

川原井利奈

映画も映画館も、ところ変われば……でさまざま。日本の配給会社に勤めた後でロンドンに移住、現地でも映画館で働いた筆者が、日英の映画事情をつづる。
 

ドリンクは座席までお届け

ロンドンのインディペンデント系映画館における、コンセッション(売店)の充実ぶりはハンパない。各種カクテル、高級ワインなどがそろって本格的なバー並みだし、ピザやホットドッグなど軽食のメニューも豊富。オーダーすれば座席まで届けてくれる。
 
手元に届くまでに映画が始まってしまうのではないか? アルコールを摂取したらトイレに行きたくならないのか? 答えは、映画の本編が始まる前にたっぷり時間があるし、始まってしまってもオーダーはスクリーンに届けられる。そして、トイレには行きたくなるし、行く。
 
本編開始前に時間があるということは、つまりロンドンの映画館は予告編が長い。平均20分前後、30分近くあることもある。映画の予告編だけでなく、半々ぐらいの割合で企業CMも流れている。世界の映画館に言えることであろうが、映画館の経営を映画上映のみで成り立たせることは、現実的にかなり厳しい。ロンドンの映画館でドリンク、カフェスペースが充実している理由は、映画以外の収入を確保するためである。そして観客もそれを理解し、むしろ喜んでその体験ごと楽しむのだ。
 
日本人の感覚としては「店員が上映開始後、スクリーンを横切るなんて!」と思うだろうが、オーダーした本人は、そのリスクを承知の上だし、映画館に来ている人も理解している。横切られるのが嫌ならば、フードやドリンクを提供していない映画館に行くしかない。映画鑑賞マナーに対する〝 厳格さ 〟は、日本人よりかなり柔軟に思える。
 
日本では必ず流れるマナーCMも映画館ごとにないわけではないが、背筋が伸びるような感覚ではなく、30分近くあった予告が終わり、いよいよ本編が始まる合図ぐらいにしか観客は思っていない。日本ではあまりにも印象的な〝映画泥棒〟だが、そういった海賊版に関しての注意喚起は一度も見たことがない。


RIO CINEMA内観(ブルーライトがトイレ)

途中入場気にしない

日本の観客には嫌がられると思うが、上映中トイレに行くことをこちらの観客はあまりいとわない。と言うと語弊があるが、上映中席を立つ観客は珍しくない。映画館によってはスクリーン直結でトイレに行くことができるし、席を立ったり立たれたりすることに心理的抵抗も少ないようだ。日本の映画館に比べると座席スペースが広く、移動しやすいこともその理由の一つに思う。
 
途中入場も、日本に比べたらかなり融通がきく。レイトショーの客に関しては映画館側は「食事をしてきた=お酒を飲んでいる」お客さんであることを理解し、あまり急がせるようなこともしない。筆者がロンドンのEverymanで働いていた1年半の間、チケットを持っている限り途中入場をお断りしたのを見たことはない。
 

エンドロールは見ない

席を立つつながりで言えば、エンドロールである。こちらの感覚では、エンドロールは「映画の続き、一部」では全くない。多くの人がエンドロール中に会場を後にするし、エンドロールが流れている間にお手洗いで用を済ませて戻ってくることも当たり前。会話もOK、携帯電話使用もOK、会場のライトが明るくなるのも珍しくない。
 
上映中に観客はよく笑うし、時々野次も聞こえる。携帯画面を開く人も日本に比べたら相当多い。さすがにロンドンでもマナー違反だし気は散るが、トラブルを目撃したこともない。観客同士があまり他人を気にせず映画を見ているように思う。東京の映画鑑賞に慣れてしまっていた私は、当初なかなかにショックであったが、今となってはエンドロールを最後まで見ることの方が珍しくなってしまった。
 

上映中の雨漏りにも文句言わず

目のあたりにしたらきっと驚くのは、上映の不備やキャンセルがあった場合の、映画館の対応と観客の反応だ。筆者が働いていた映画館は、イベントホールをEverymanが買い取って改修したもので、老朽化が激しかった。スコールのようなお天気雨が降るのも珍しくないロンドンだが、その土砂降りにより、会場内に水漏れが発生することが度々あった(映画館のメンツのためにいうと、私が去った後に改修工事があったようなので、現在はその心配に見舞われることはないはずだ)。
 
水漏れの程度も半端ではなく、映画上映に(特に音)支障をきたすほどだった。従業員は業務そっちのけで、雨漏り対策をする羽目に毎度なったが、もちろん上映を続けられるはずがない。一度、上映中に雨漏りが始まって上映を止めざるをえず、観客を途中退出させる結果に。もちろん無償で映画を見られるチケットを渡したが、誰も怒ることなく、むしろ従業員にいたわりの言葉をかけながら去って行った。誰一人文句を言うことなくである。
 

別の映画館に振り替え案内

またある時、プロジェクターの故障で上映をキャンセルしたことがあった。その際は、系列で距離が近い二つの映画館の、次の上映回に案内するという対応策をとった。私たちの映画館の次の上映回は、満席で案内できなかったためである。つまり映画館に着いた客にいきなり「こちらとあちら、どちらの映画館が行きやすいか、都合がいいか」と聞き、促したのである。どちらも都合が悪い場合にのみ、無料チケットを手渡した。交通費を映画館側がカバーすることもなかった。
 
案内された先の映画館は、その観客を待つために上映時間を遅らせる、ということまでした。そして待たせている客、変更を強いられた客にフリーシャンパンを振る舞った。素晴らしい連係プレーではあるが、ここで再びの疑問は、観客は文句を言わないのか?ということである。結果はほとんどの人がそれに従い、大きなトラブルはなかった。
 
一つ付け加えておきたい点は、上記のエピソードはEverymanで起こったことで、「観客の質の良さ」がポイントになっているかとも思う。彼らは、20ポンド(約3600円)を払うことをいとわない客層である。


「映画の日」は全ての映画が3ポンド(約540円)! 物価高のロンドンでは3ポンドで買えるものを探す方が難しい

あの手この手の割引サービス

ロンドンの映画館は平日の昼間に観客を確保するのに特に苦労していて、さまざまな施策が見受けられる。たとえば乳幼児と親が共に映画を鑑賞できる「ベビースクリーン」は料金は親のみ、チケット代にカフェドリンクが含まれている。通常より上映時の音量が抑えられ、その代わりに英語字幕が付いている。
 
高齢者割引の「シルバースクリーン」もあり、視力が悪い・耳が遠い観客に配慮して、こちらも英語字幕付きである。「ドッグスクリーン」では愛犬と共に映画を見ることができ、「キッズスクリーン」は通常料金より安く、スナック菓子がついてくる。
 
日本では毎月1日の〝ファーストデイ〟は、ロンドンでは〝 National Cinema Day 〟と称し、年に1回、9月の第1土曜日で、一律3ポンド(約540円)で見られる。20ポンド程度の通常料金に比べると、かなりお得と言えるだろう。筆者も利用したが、どこの映画館でも満席続出、老若男女問わず訪れていた。


「デューン」のロンドンプレミア上映のステージが設置されている様子。主演のティモシー・シャラメを目視することはかなわなかった

欧州の監督、俳優と直接会える楽しみ

ロンドンに来て良かったと思うのは、欧州中の監督、俳優を頻繁に見る機会があることだ。今年はハリウッドのストライキに重なり華やかな場面は少なかったが、ロンドン最大級の映画祭「ロンドン映画祭」では、それこそ顔を見ればわかる超有名俳優たちが一気にそろう。ハリウッド大作のロンドンプレミアも頻繁に行われるし、英国アカデミー賞も目を見張るものがある。
 
アートハウス系の映画が大好きな筆者にとって、舞台あいさつやティーチインで彼らと接する楽しみは、何ものにも代え難い。パンフレット文化がないロンドンでは、監督、俳優からじかに話を聞けることが、映画を理解するのに非常に重要なことに思える。

こうしたイギリスの映画産業を支援し、映画と映画館カルチャーを支えているのがイギリス映画協会(BFI)だ。英国の映画を語る上で、外すことのできないBFIについては、別の機会に。

ロンドンの映画料金には〝定価〟がない! 封切りも900円から3600円まで 元配給社員の英国探訪記

ライター
ひとしねま

川原井利奈

かわらい・りな ライター。映画配給会社勤務を経て、現在はロンドン在住。

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