映画「ミュジコフィリア」の一場面

映画「ミュジコフィリア」の一場面©︎2021 musicophilia film partners ©︎さそうあきら/双葉社

2021.11.18

「ミュジコフィリア」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

京都にある芸大の美術学部に入った朔(井之脇海)。才能があるのに、父や兄へのコンプレックスで音楽を遠ざけていたが、現代音楽のサークルに引き込まれ、即興でピアノを弾く。偶然に聴いた凪(松本穂香)は音色に共感し、朔に思いを寄せ、影響も与えていく。朔の異母兄は、若き天才作曲家で大学院生の大成(山崎育三郎)。生い立ちや音楽をめぐり兄弟で衝突し、大人の思惑にも振り回されつつも、成長していく。原作は、さそうあきらの同名漫画。

青春の一コマとシンクロさせて、「正統な」クラシックと「自由な」現代音楽を対置しながら音楽の本質に迫っていく。視覚と聴覚で音楽史の輪郭をつかめる仕掛けも。オーケストラの演奏や、川に吹く風や日用品を使って音を奏でる場面もあり、多彩な音のありようを描く。全編を京都でロケ。賀茂川の中州にグランドピアノを置いて撮影した場面が見せ場で、豊かな自然や街の表情を巧みに映し出している。谷口正晃監督。1時間53分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪ステーションシティシネマほか。(瀬)

ここに注目

憎みながらも音楽から逃れられない朔の葛藤やその才能に嫉妬する大成の苦悩は、形は違えど誰もが若い頃に経験したはず。ピアノの弦に金属を置いて不思議な音色を生み出すなど、現代音楽の自由さに驚かされた。松本の伸びやかな歌声が響くラストが爽やかで心地よかった。(倉)

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