(c)2019 OLD CHILLY PICTURES LLC.

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2021.9.09

ミッドナイト・トラベラー 遠い祖国、さまよう家族

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

米軍撤退後のアフガニスタンは混迷が続く。このドキュメンタリーは、2015年にタリバンから死刑宣告を受けたハッサン・ファジリ監督が、妻ファティマと2人の娘を連れて国を逃れ、ヨーロッパに到着するまでの軌跡を記録した。ファジリ監督は自身のスマートフォンで、3年、5600㌔に及ぶ脱出行を撮り続けた。

タジキスタンからイラン、トルコと移動するうちに、金をだまし取られ、キャンプの劣悪な環境に苦しみ、難民を差別する住民から暴力を受ける。幼い娘と荒野で、森で野宿しながら前へ進む。セルビアでは1年以上出国を待った。

カメラは時に家族のいら立ちを映し出すものの、非日常の中の日常や美しい自然の情景を詩情と共に捉え、娘たちの成長も刻む。無邪気で明るい2人は両親にも観客にも希望となるが、同時に切なくもある。逃避行が幼い心に刻んだ痛みを、思わずにいられない。

タリバンが制圧した祖国に、一家が戻れる公算は小さいだろう。映画は世界の不条理を突きつけ、同質の同胞に囲まれた環境が当たり前の我々に、国とは、民族とはと問いかける。1時間27分。東京・シアター・イメージフォーラム(11日から)。大阪・第七芸術劇場(18日から)ほかでも。(勝)

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