「MEMORIA メモリア」

「MEMORIA メモリア」©Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF/Arte and Piano, 2021.

2022.3.03

特選掘り出し!:「MEMORIA メモリア」 〝音〟の起源をたどる旅路

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

「ブンミおじさんの森」のアピチャッポン・ウィーラセタクン監督が、初めて母国タイの外で撮った作品だ。舞台は南米コロンビア。ある夜、原因不明の衝撃音によって目覚めた英国人女性ジェシカ(ティルダ・スウィントン)。それ以来、不眠に悩む彼女は、〝音〟の起源をたどるようにして田舎の森に足を踏み入れていく。

公園などで突然鳴り響く衝撃音は、ジェシカの周囲の人には聞こえない。それは病気のせいか、超常現象か。映画は答えを示さず、催眠術にでもかかったようにさまようジェシカの旅路を映し出す。

静謐(せいひつ)な長回しが連ねられ、物語性も乏しい映像世界は、それこそ観客を眠りに誘いかねない。しかし理屈でのみ込むことを放棄し、神秘的な映像と音響のスペクタクルに身を委ねると、夢と記憶、土地の歴史が入り交じった別次元へのミステリーツアーというべき希有(けう)な映画体験に没入させられる。

ジェシカが音響技師の協力を得て問題の〝音〟を再現する場面に驚かされ、モダンな建築物、気候の変化、自然のざわめきを取り込んだビジュアルにも魅了される。カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞。2時間16分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(諭)

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