©️2023 BLACKBOX FILM & MEDIENPRODUKTION GMBH

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2023.9.12

人間の最暗部を目の当たり! 「メンゲレと私」12月公開 クラウドファンディング実施中

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

鈴木隆

鈴木隆

ホロコースト証言シリーズ完結作

「ゲッべルスと私」(2018年公開)、「ユダヤ人の私」(21年公開)に続くドキュメンタリー映画で、ホロコースト証言シリーズ最新作「メンゲレと私」が12月3日に公開される。ナチスによるホロコースト生存者で同作主演のダニエル・ハノッホさん(91歳)と監督を招へいし、東京、大阪、沖縄で自らの体験を直接語ってもらうためのクラウドファンディングを実施している。期間は9月末まで。支援は、舞台あいさつ付き公開初日プレミア鑑賞券(5000円)や教育機関のエデュケーショナル権付き3作Blu-rayボックス(3万円~)などさまざまある。

「メンゲレと私」の主人公はリトアニア出身のユダヤ人、ダニエルさん。9歳の時にカウナス郊外のゲットーに送られ、12歳でアウシュビッツ強制収容所に連行された。金髪の美少年だった彼は、非人道的な人体実験を繰り返したヨーゼフ・メンゲレ医師に気に入られ、特異な収容所生活を送った。ダニエルさんは終戦間際に連合軍の攻勢から逃れるため捕虜たちが強制的に移動させられた「死の行進」も体験。暴力や伝染病、カニバリズムといった人間の最暗部を目の当たりにする。

映画は、ダニエルさんが当時を振り返り、収容所で何が行われたか、解放後も含めてその実態を証言。当時のアーカイブ映像を挟み込み、ホロコーストの真実に迫っていく。

ナレーションも音楽もなし。スタイルは前2作と同様だ。作品は前2作と同じように東京・神保町の岩波ホールを皮切りに3部作の完結作としての公開を想定していた。配給のサニーフィルムも、前2作と同じクリスティアン・クレーネスとフロリアン・バイゲンザマー両監督に日本公開を約束していたが、22年7月に岩波ホールが閉館。日本公開は一時棚上げ状態になった。

今年2月、サニーフィルムの有田浩介代表がベルリン国際映画祭でクレーネス監督らと再会。岩波ホールに近い劇場での公開に向けて動き出す。4月には、岩波ホールで前2作に深くかかわり広報や宣伝も担当した矢本理子さんに協力を打診する。岩波ホール解雇以降、親の介護にあけ暮れる日々を送っていた矢本さんも3作目が気になっていた。矢本さんにとっても「岩波ホールから残っていた宿題だった」と共同作業が始まる。岩波ホールの元メンバーたちも新たな環境にいながらも協力の意志を示す。

矢本理子さん

「前2作の出演者は公開時にすでに亡くなっていた。ダニエルさんを日本に呼び、彼の話を多くの人に聞いてもらいたい。特に若い人に耳を傾けてほしい」。有田さんは東京での公開を東京都写真美術館ホールに依頼。大阪は第七藝術劇場、沖縄は桜坂劇場と上映館が決まる。

「クラウドファンディングは支援のお金を募るだけでなく、プロジェクトを共有するためのもの。興行的にはギブアップしても、多くの人に見てもらい、話を聞いてもらいたい。興行というより、一つの大きなプロジェクト」と言い切る。

矢本さんは語る。「戦争などの体験をした人が日本でも外国でもどんどん減ってきている。つらい過去を話そうとする人たちの存在は極めて貴重であり、尊重されるべきだと思う。ダニエルさんはまだ鮮明な記憶を持っていて、イスラエルの子供たちにアウシュビッツを見学させるツアーなども実行してきた人だ。彼の話を多くの日本の人たちに聞いてもらいたい」


クラウドファンディングの方法については「社会や世の中の問題に関心のある人に届けやすいし、全国に広がっていける」と話す。さらに、今のミニシアターの現状にも目を向ける。「各地で閉館のニュースが相次いでいる。どの映画館もいい作品を上映したいという思いがある。この作品がその一助になってくれたら」と全国のミニシアターにもエールを送る。ホロコーストの生存者に日本に来てもらい、映画館で自由に語ってもらう。そのためには「クラウドファンディングは不可欠の方法。この活動にぜひ参加していただけませんか」と呼びかけている。

ホロコースト証言シリーズのアドレスは、
https://www.sunny-film.com/shogen-series
問い合わせ用メールアドレスは、
 shogen.series@gmail.com

「メンゲレと私」キックオフイベント開催 9月17日


また、9月17日(日)東京・赤坂のゲーテインスティトゥート東京で「メンゲレと私」のキックオフイベントを開催する。
上映作品は、「ゲッベルスと私」と「ユダヤ人の私」の2本立て。
上映後に、小野寺拓也氏(東京外国語大学准教授「検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?」共著者)と、クリスティアン・クレーネス監督(「ホロコースト証言シリーズ」3部作)=オンライン参加=による特別対談。
参加券は
会場1日参加券=1000円。
対談のオンライン視聴券・1カ月間のアーカイブ配信あり=1000円
申し込みフォーム:https://shogen-series.peatix.com

「ホロコースト証言シリーズ」

オーストリア・ウィーンにある国際的な製作プロダクション、ブラックボックス・フィルムのクリスティアン・クレーネス監督とフロリアン・バイゲンザマー監督によるドキュメンタリーの3部作。第二次世界大戦の体験者が減っていく中で、戦争、ホロコーストの証言を記録として映像に残す。1作品1人の証言者が登場し、当時の記憶を赤裸々に証言している。インタビューの合間にアーカイブ映像が挟まれ、ドイツやヨーロッパ各国の状況を理解する構成になっている。

「ゲッベルスと私」は18年6月に公開され大ヒット。ナチスの宣伝大臣だったヨーゼフ・ゲッベルスの秘書を3年間務めたブルンヒルデ・ポムゼル(撮影当時103歳)が主人公で、当時のナチ中枢部の日常を語った。
第2作の「ユダヤ人の私」は、21年11月に公開。アウシュビッツを含む四つの強制収容所に送られたが、生還したマルコ・ファインゴルト(撮影当時104歳)がその体験を語っている。

最終作となる「メンゲレと私」では、12歳でアウシュビッツ強制収容所に連行されたリトアニア出身のユダヤ人、ダニエル・ハノッホ(1932年生まれ)が語り部として登場。91歳の今もイスラエルのテルアビブに在住。自らの戦争体験を日本の観客に語ることを願っているという。
ダニエルさんから来日に向けてのビデオコメントが届いている。


「メンゲレと私」は12月3日から東京都写真美術館ホール、次いで大阪・第七藝術劇場、沖縄・桜坂劇場ほか全国公開。

クラウドファンド・プロジェクト「『ゲッベルスと私』の『ホロコースト証言シリーズ』3部作を社会に残したい」詳細はこちら(https://shorturl.at/ADIJN

ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

カメラマン
田辺麻衣子

田辺麻衣子

たなべ・まいこ 2001年九州産業大学芸術学部写真学科卒業後スタジオカメラマンとして勤務。04年に独立し、06年猫のいるフォトサロンPINK BUTTERFLYを立ち上げる。企業、個人などさまざまな撮影を行いながら縁をつなぐことをモットーに活動中。

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