国際交流基金が選んだ世界の映画7人の1人である洪氏。海外で日本映画の普及に精力的に活動している同氏に、「芸術性と商業性が調和した世界中の新しい日本映画」のために、日本の映画界が取り組むべき行動を提案してもらいます。
2023.2.16
【最新作「水俣曼荼羅」DVD発売に思う】私には原一男監督が必要だ。作品も、ともに過ごす経験も
結局この場で言ってしまっているが、本当に特別な場合でなければあまり言わない経歴がある。
それはテレビの情報放送番組やドキュメンタリーなどを作る制作プロダクションの企画チーム長を務めたことである。断言するが、自分の「黒歴史」である。理由は簡単だ。本数では数十本に達し、テレビ局の基準には何の問題もなかったが、創作者としては恥ずかしい限り。多種多様な内容だったが、魂を込めて自分の全てをかけて勝負したことがなかった。ただ、その時その時ではやりそうな「アイテム」さえ出せば半分以上は完成し、そこに興味本位の浅い知識を混ぜ合わせ、うまく包装したいいかげんなものを作り出した。食べていく以外に何の目的も価値もなかった。
世界に求められる鬼才・原一男監督作品との出会い
個人的に交流をしているが、実は話し合うたびに「伝説を体験している」感じがする「ドキュメンタリー映画の鬼才」原一男監督、そして彼の頼もしいパートナーの島野千尋プロデューサーが私に与えるプレゼントは、冒頭に述べた「黒歴史」に対する治癒の経験。しかし、逆説的にも私が「原一男」という名前を覚えるようになったきっかけも「羞恥心」だった。制作プロダクションの海外取材で知り合ったオーストリア人の友人から、「半分は日本人で、それもドキュメンタリーの仕事をしている人間が、ベルリン国際映画祭のカリガリ映画賞に輝く『ゆきゆきて、神軍』という日本の力作を知らないのは話にならない」と言われた。彼の指摘が本当に痛かったのは、作品を見た後に何の反論もできなかったためだ。それを基点に「全身小説家」「ニッポン国VS泉南石綿村」、そして「れいわ一揆」に至る「マスターピース巡り」が始まった。
原監督だから撮れる、感情を揺さぶるドキュメンタリー
ここで筆者はまた別の世界と遭遇した。「真実の力」や「正義の追求」などうさん臭いことではなく、「アメリカアクション映画が好き」と公然と言っている原監督の新作を撮るたびに若返る感覚と、数時間のランニングタイムがあっという間に過ぎ去ったように感じさせる「エンターテインメント」としてのドキュメンタリー映画。そこにもうひとつ加えると、人生を数学の公式のように簡単な善悪の構図で描き、幼稚なストーリーテリングで勝手に英雄作りをしない驚くべき演出力。純粋な怒りがあるかと思えば、抱腹絶倒のユーモアもあり、「もしかしたら原監督は『サウスパーク』(アメリカのケーブルテレビチャンネル、コメディㆍセントラルで放送されている切り絵風のストップモーションㆍアニメ)のファンなのでは?」と思わせる辛辣(しんらつ)な風刺が脳裏に刺さった。彼の作品のDVDを何枚も持って地方のホテルに泊まれば、食事と短い散歩をする時以外はずっとテレビの前に正座し、外で春の花が咲いているのも覚えていない「記憶のモンタージュ」が起きるのだ。そして思う。少年のように愉快で才気はつらつとしているが、決して威張らない謙虚さが光る彼は、まるで日本のドキュメンタリー映画の宮本武蔵ではないかと。普段、高等教育無用論は勉強嫌いの連中の言い訳ではないかと考える筆者は、原監督が「私は大学教育を受けていない人だから」と言う時だけは、「いや、いや、いや」と何度も話しながら首を横に振る。どんな流派の影響も受けなかったために「剣聖」が生まれたように、どんな中途半端な「教育」という名のドグマも移植されなかったため、彼は厳粛主義が支配していた日本のドキュメンタリー映画に新しい地平を開いたのだ。
最新作「水俣曼荼羅」に改めて向き合い、見た世界
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そんな原監督の最新作で、釜山国際映画祭にも出品されていた「水俣曼荼羅」のDVDが、2月3日に発売された。何とうれしい知らせか。同映画は原監督の最新作というだけでなく、コロナ禍の真っただ中だった2020年、疫病の修羅場を突破する火の戦車のようにDMZ国際ドキュメンタリー映画祭正式出品作の「れいわ一揆」とともに、それぞれ異なる韓国の国際映画祭に招待される快挙を成し遂げたジャパンフィルムヒストリーの道しるべだ。今も覚えている。372分という驚異のランニングタイムのニュースを聞き、チケットを予約しておいた日の朝から食事はもちろん、水も飲まなかった。途中でトイレに行って、見逃してしまうのではないかと心配になって耐えられなかったからだ。国家権力の偽りを批判し、その対抗点で20年余りにわたって法廷闘争を続ける90代の老人、水俣病を究明しようとする医大教授、医学テストを受ける漁師などの群像を描きながらも、彼らを幼稚なヒロイズムで褒めたたえないこの作品は、すでに現実で撮った映像を再構成し、新しい生命力を吹き込んだもうひとつの世界だった。上映が終わって筆者を襲った不安が忘れられない。これからこのような作品が二度と見られなくなったらどうなるだろうかと。
2月14日、第77回毎日映画コンクール表彰式に参加するための帰国。昨年の第76回の時にドキュメンタリー映画賞を受賞した「水俣曼荼羅」のDVDを購入し、改めて2020年秋の感動を味わってから、島野プロデューサーに連絡をしたい。今回の集まりのテーブルにはどうかお酒が置いてあることを願う。
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