深田晃司監督=宮武祐希撮影

深田晃司監督=宮武祐希撮影

2023.12.23

「宮本から君へ」助成金訴訟判決 「萎縮の連鎖断ち切った」深田晃司監督 多様な表現に助成必要

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勝田友巳

勝田友巳

出演者のピエール瀧の薬物事件を理由に、文部科学省所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(芸文振)が映画「宮本から君へ」への助成金を不交付としたことを巡り違法性が争われた訴訟で、最高裁は「不交付決定は違法」と判断し、原告の製作会社「スターサンズ」の勝訴が確定した。1審の東京地裁は原告勝訴、控訴審の東京高裁は被告の芸文振の主張が認められたが、上告審では高裁判決を退け、文化芸術への公的支援について行政の過剰な介入を戒める、踏み込んだ判決となった。今後の映画製作支援はどうあるべきか。映画製作支援の必要を訴え、「日本版CNC設立を求める会」のメンバーでもある深田晃司監督に聞いた。

映画製作支援は、芸文振が国の補助金を財源として製作費を助成する制度。実作者らで構成される専門委員会の審査を経て理事長が決定する。2019年3月「宮本から君へ」への助成金交付を決めたが、ピエール瀧さんへの有罪判決を受けて、「公益性の観点」から交付を取り消した。「スターサンズ」はこの決定を「裁量権の逸脱で違法」と不交付取り消しを求めて提訴していた。


「宮本から君へ」訴訟の上告審判決後、記者会見する原告側の弁護士ら。手前の写真は2022年6月に亡くなった「スターサンズ」の設立者で映画プロデューサーの河村光庸さん=2023年11月17日、渡部直樹撮影

公的支援どうあるべきか議論可視化

――最高裁判決をどう受け止めますか。

判決は、表現の自由を定めた憲法21条に触れて「表現行為の内容に萎縮的な影響が及ぶ可能性」も指摘し、「看過しがたい」としました。これが判例となって残り、今後の文化芸術支援を考える上で重要な一石になったと思います。この裁判の意義は、文化芸術の公的支援がどうあるべきかという問題が可視化されたことでした。

そもそも芸文振が「出演俳優が薬物犯罪で有罪判決を受けた作品に助成金を交付することで、政府が薬物に寛容だというメッセージが広がる」と判断したことが不可解でした。作り手と作品を完全に切り離すことはできないとしても、今回のケースでこうした懸念はあてはまらないし、専門的な知見を経て決定した助成金交付を理事長がトップダウンで覆しています。

芸文振が国と一体に違和感

芸文振は独立行政法人で、助成金交付の可否も独自に判断すべきです。それなのに、不交付決定に際しては国と一体であるかのような物言いで、違和感がありました。芸文振が不交付を決定した2019年は、文化庁が「あいちトリエンナーレ」の企画展への補助金不交付を決めた時期と重なっています。こうした状況を過剰にそんたくし、〝萎縮の連鎖〟が起きたのではないでしょうか。二つのケースは事情が異なり「宮本から君へ」はいわば場外乱闘ですが、本質的な部分は共通していると思います。

もっとも、芸文振だけを強く責めることもできないと考えています。世論の反発に向き合うのはそれだけでかなりの労力が必要だからです。そして、こうした面倒が起きる可能性を内々で潰そうとすることが、萎縮の始まりとなるのです。今回の判決は連鎖をいったん断ち切ったという意味でも重要でした。芸文振の中でも歯止めになることを期待したいです。


「宮本から君へ」訴訟の上告審で逆転勝訴が確定し、最高裁判所前で「歴史的判決」などと書かれた紙を掲げる原告側弁護士ら=東京都千代田区で2023年11月17日、渡部直樹撮影

誰もが表現の当事者に

――文化芸術支援はなぜ必要なのでしょう。芸術の「公益性」はどこにありますか。

さまざまな作品を生み出し表現の多様性を維持することは、民主主義の根幹に関わる問題です。民主主義の本質は多数決ではなく、少数の意見をできるだけ聞き取り、社会に反映させることです。声なき声をすくい上げるために、芸術表現は重要な役割を果たしています。経済状況や属性にかかわらず誰もが表現の当事者になれることが重要で、公的助成はその後押しとなります。人間の多様性を可視化することが、芸術の公益性だと思います。

表現の中でも映画はお金がかかり、市場原理に影響されやすい。どうしても、製作資金を回収するために人気俳優や有名原作が必要だという考えが主流になりやすく、自由度は狭まってしまいます。しかし助成金があれば商業性の低い作品でも製作が可能になり、自分のように作家性の強い映画の作り手にとって、極めて重要です。

韓国、フランスでも議論重ね

――文化芸術への公的支援は、どのようなあり方が理想でしょうか。社会と芸術は、どのような関係を築くべきなのでしょう。

国から独立した機関が専門的な知見から審査し、支援を決定するのがあるべき姿だと思います。韓国やフランス、英国などにはそうした機関があり、芸文振もある程度は機能しているでしょう。

しかし、日本だけでなく諸外国でも、常に理想的な運用ができているとも思いません。税金を投入するにあたって、せめぎあいは避けられないからです。韓国では2016年、当時の朴槿恵大統領が政権に批判的な芸術家のブラックリストを作り、支援を打ち切ったことが表面化して社会問題となりました。手厚い芸術家支援策があるフランスでも、支援反対派に配慮して予算を抑制することがありますが、それに対して反対デモが行われるなど議論が活性化します。支援がどうあるべきか、社会全体で議論を重ねることが大切だと思います。


2022年3月、「宮本から君へ」訴訟の控訴審判決後に記者会見する「スターサンズ」河村光庸社長(右、当時)。河村社長はこの後上告したが、同年6月、最高裁判決を聞くことなく世を去った勝田友巳撮影

作り手は表現に責任負う

芸文振は今回の助成金不交付を決めた後に、要綱を改定して「キャストまたはスタッフ等が犯罪などの重大な違法行為を行った場合には、『公益性の観点』から助成金の交付内定や交付決定の取り消しを行うことがある」との規定を加えました。判決が確定した以上、見直すべきでしょう。「重大な違法行為」の内容があいまいだし、こうした文言が表現を抑制する方向に利用されることを警戒すべきです。社会も厳しく見守っていく必要があると思います。

――作品と作り手の関係はどうあるべきでしょうか。

何をどう表現しても許されるとか、完成した映画がすべて公開されるべきだとか、そうは思いません。といって、クレームが怖いからと脊髄(せきずい)反射のように公開中止や延期を決めるのもよくありません。出演者やスタッフ全員の来歴や内面を完全に把握することは不可能です。重要なのは、作り手は自らの表現に責任を負っているということ、問題が起きた時に主体的に判断することです。批判を受けた映画を公開するなら、責任を持って説明すればいいことだと思います。個々のケースを、慎重に判断すべきだと思います。

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

宮武祐希

毎日新聞写真部カメラマン

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  • 深田晃司監督
  • 「宮本から君へ」訴訟の上告審で逆転勝訴が確定し、最高裁判所前で「歴史的判決」などと書かれた紙を掲げる原告側弁護士ら=東京都千代田区で2023年11月17日
  •  「宮本から君へ」訴訟の上告審判決後、記者会見する原告側の弁護士ら。手前の写真は2022年6月に亡くなった「スターサンズ」の設立者で映画プロデューサーの河村光庸さん=2023年11月17日
  • 2022年3月、「宮本から君へ」訴訟の控訴審判決後に記者会見する「スターサンズ」河村光庸社長(右、当時)。河村社長はこの後上告したが、同年6月、最高裁判決を聞くことなく世を去った
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