©原泰久/集英社 ©2022映画「キングダム」製作委員会

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2022.7.14

佐藤信介が世界を覆う、拡張するヒーローと「キングダム2 遥かなる大地へ」

国際交流基金が選んだ世界の映画7人の1人である洪氏。海外で日本映画の普及に精力的に活動している同氏に、「芸術性と商業性が調和した世界中の新しい日本映画」のために、日本の映画界が取り組むべき行動を提案してもらいます。

洪相鉉

洪相鉉

「チェッ!」
「落ち着いて、アミーゴ。 僕だってしょうがないよ」
筆者の「バッドニュース」を聞いたモニターの向こうにいるAは、非常にがっかりした。スペイン人のジャンル映画マニアのAは、富川国際ファンタスティック映画祭(BIFAN)のプログラムを期待していたのだ。さらに今年は通常開催はもちろんアジアではめずらしいメリエス国際映画祭連盟(MIFF。ポルト国際映画祭、ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭、シッチェスㆍカタロニア国際映画祭など、ヨーロッパを中心とした世界有数のジャンル映画祭ネットワーク)の加盟映画祭らしく、審査員の中にシッチェスㆍカタロニア国際映画祭(SITGES)の財団理事長も含まれていたではないか。あとはAが敬愛する筆者の「映画の友」の新作が招待されれば、彼を熱狂させるシナリオが完成するところだった。この「映画の友」とは佐藤信介のことである。
 

世界に誇るスーパーヒーロームービーメーカー

Aが佐藤の大ファンになったのは2015年。彼はSITGESで上映された「アイアムアヒーロー」が現地人の爆発的な反応を得て、観客賞を勝ち取った。「ジャンル映画祭の花」とも呼ばれる最優秀特殊効果賞と共に。アニメの感受性にゾンビ映画のスリル、西部劇の完成度の高い銃撃戦までも加えた同作は、ロッテンㆍトマトのトマトメーター91%という驚異の数値が証明するように、「日本の佐藤」を「MIFFの佐藤」に引き上げるきっかけとなった。その後、ポルト国際映画祭での観客賞ㆍオリエンタルエクスプレス特別賞のダブル受賞、ブリュッセルㆍファンタスティック国際映画祭(BIFFF)グランプリ受賞は、SITGESでの反応ともつながるだろう。
 
佐藤自身でさえ限界を知らなかったはずの実力の発揮は、自作「いぬやしき」によって具体化した。トマトメーター100%という数値や2回目のBIFFFグランプリの栄誉をもたらした事実は「日本映画にはスーパーヒーロームービーがない」という海外での先入観を払拭(ふっしょく)させることに貢献した。
 

試練の中、制作の炎を燃やし続ける監督・佐藤信介

しかし、世界の誰もが避けられない試練は、佐藤の全勝街道にも迫ってきた。映画的想像力の時空間を春秋戦国時代大陸に拡張させたアクションアドベンチャーㆍブロックバスターのお手本のような作品「キングダム」の国際映画祭での活躍が、コロナ禍で萎縮してしまったのだ。彼が直接脚本も書いた同作は、韓国全土で186個のスクリーンに掲げられ奮闘したが、パンデミックの壁は超えられなかった。しかし、海外映画祭の関係者一同が、必死の覚悟で第24回BIFAN(2020年)を決行するという便りを佐藤に伝えると、「今の局面で映画祭をあきらめなかった意志は、いつか必ず評価される」という熱いエールを送ってくれた。
 
それだけではない。 映画業界への打撃で将来数年間、この後遺症が続くという暗いムードが広がっても、佐藤はむしろ「国内市場にとどまらず、世界へ向かうべき時が来た」と意気込みを示した。その言葉が実現したのは、そのわずか数カ月後。Netflix興行世界4位を記録し、昨年の釜山国際映画祭 2021年アジアコンテンツアワードのベストクリエイティブ部門にノミネートされた「今際の国のアリス」を作り出したのだ。
 

飛べ、世界へ! 「キングダム2 遥かなる大地へ」公開

冒頭のAの期待には応えられなかったが、世界的にWITHコロナの局面が始まる今夏、観客の期待に応える「キングダム2 遥かなる大地へ」は、やはりアップグレードされている。 アジアを代表するブロックバスターㆍシリーズのグランドオープニングで不足のなかった「キングダム」と比べても、スケールが拡張された。それだけではない、重鎮の安定感を見せている豊川悦司と小澤征悦の対決構図の中でも、ヒーローキャラクターとしてのポジションを固める山﨑賢人の成長が目立つ。複数の魅力的なキャラクター(特に渋川清彦は同作で各種映画賞の助演俳優賞を狙うに値する)を配置することで、ドラマの面白さを倍増させる佐藤の能力は相変わらず輝いており、MX4D、4DX、ドルビーシネマ、IMAXという最先端上映システムのオプションは、「シネマㆍバカンス」という映画体験を望む日本映画の観客に忘れられない思い出を抱かせるだろう。そう、この勢いならヨーロッパでの公開も時間の問題だ。
筆者は再びモニターを開き、Aにビデオ通話をかける。こちらのセリフはもう準備できている。
「いいか。アジアには『苦尽甘来(Sweet after bitter)』という言葉がある」

ライター
洪相鉉

洪相鉉

ほん・さんひょん 韓国映画専門ウェブメディア「CoAR」運営委員。全州国際映画祭ㆍ富川国際ファンタスティック映画祭アドバイザー、高崎映画祭シニアプロデューサー。TBS主催DigCon6 Asia審査員。政治学と映像芸術学の修士学位を持ち、東京大留学。パリ経済学校と共同プロジェクトを行った清水研究室所属。「CoAR」で連載中の日本映画人インタビューは韓国トップクラスの人気を誇る。