ひとしねま

2022.12.16

チャートの裏側:家族に伝える言葉の重さ

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

2000年以降、第二次世界大戦を題材にした邦画(実写)で、興行収入が10億円を超えたのは5本。そもそも、多くの観客を視野に入れた戦争映画が少なくなった。理由はいろいろあろうが、戦争の記憶がかなり遠のいたことが大きいだろう。

「ラーゲリより愛を込めて」は、シベリア抑留者の想像を絶する苦難を描く。年配者中心に席が埋まったシネコンで見て、思い出した作品がある。今井正監督、渥美清主演の「あゝ声なき友」(1972年)だ。戦争で命を落とした戦友たちの遺書を、遺族に届け続ける男を描く。

2本とも、家族に伝える言葉の持つ、とてつもない重さが作品の根幹にある。なかんずく、「ラーゲリより愛を込めて」は、そのことの究極を突き詰めようとした作品だ。言葉が伝える核心部分には人間の本質がある。だからこそ本作は、あらゆる戦争の痛ましい悲劇に通じる。

今や、戦争が遠のいたどころの話ではない。興行的な見通しを考えた上で、映画ができることは何かを考えたい。まずもって、この国の歴史を改めて振り返ることである。なぜ、戦争が起こったのか。そこを起点にするのだ。歴史上の新たな事実も掘り起こされている。今回、一つの流れができたと思う。あとに続く映画人への期待は大きい。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)